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......あの雷鳥、無事だろうか。
一切の音がしない静寂の世界で、駿は意識を取り戻した。
全身を圧迫する雪の重みを感じ、息をするのも苦しい。体の上に何人もの人間を乗せているような感覚だ。完全に雪の中に埋もれてしまったようだった。
足と手を必死にもがいてみせた。だが息が切れるばかりで訪れるのは痺れるような冷たさばかり。自分が雪崩の中のどこにいるのかさえ分からなかった。
今回登ってきた尾根のルートで雪崩が起きたという前例は聞いたことがない。ましてや12月初旬だ。まだ積雪量はそれほど多くはないはずだ。
だが、昨日から気温が急激に下がり積雪が増していた。雪崩を正確に予測することなど不可能に近い。
(表層雪崩か……)
駿は顔を歪めた。次第に息が苦しくなってくる。窒息状態に陥れば10分ともたないだろう。
梓に「武と付き合うことになった」と報告を受けたとき、自分の身が半分に切り裂かれたような痛みが走った。
その時になってようやく思い知った。梓のことが好きだったんだということに。だが、幸せそうに顔を見合わす二人を見て決意した。
山からおりたら伝えるんだ。
梓と武に、よかったなって。祝福してやるんだ。
頭の中で、雪のように真っ白な雷鳥の姿が浮かんだ。雷鳥のピンバッジを今回も持ってきたのに、雪崩に遭ってしまった。
すまない、と謝ったら梓は怒るだろうか。まさか自分が死ぬために山に入ったなどど誤解されないだろうか。
......それだけが気がかりだった。
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