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しばらくすると雲はますます厚くなり、少し風が出てきたようだ。標高2千メートル付近で吹きぬける風は容赦がない。その音に耳を傾けてから、僕は口を開いた。
「......僕さっき雷鳥に会ったんですよ」
「え?」
「6月だっていうのに、その雷鳥は雪みたいに真っ白でした」
雷鳥は晴れの日は外敵から身を守るため、背の低いハイマツの影に隠れている。雷鳥が外の世界に出てくるのは、もっぱらこんな曇りの日だ。
「君はなんで真っ白なの?って聞いてみました」
「雷鳥に話しかけたんですか?」
「知ってますか。雷鳥の羽をお守りにして持っていると、道に迷わないとか」
「よく、ご存知ですね」
「君のその白い羽、一枚くれませんかってお願いしてみました」
彼女は驚いてコーヒーの入ったカップを落としてしまった。彼女は謝ってはいたが、こぼれたコーヒーより話の続きが気になるようだった。
「それで…‥雷鳥はどうなったんですか?」
「雷鳥、好きですか?」
「......はい、とっても」
彼女が今までにないくらい、はっきりと答えた。
「羽は落としてくれませんでした。代わりに、これを落としていきました」
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