山の灯火

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「ソラくんって言ったっけ?君は若いわね。でも、その情熱は悪くない。自分を変えたいと思う気持ちは大事よ。この山は険しすぎるわね。誰も登り切ったことがない。越えたことはない。それこそ伝承の中だけの話」 「へぇ、なんか面白そうな話じゃん」 と言いながら、カウンターに座っていた若い女性が、グラスを持ってソラたちの席に移動してきた。 「あたしはレミー、よろしくぅ」 快活そうな、そしてやや上気した笑顔をソラに向けた。 「わかる、そのもどかしさ」 「わかってもらえますか?」 「うむうむ、わかるぞな少年よ。今度はあたしの切ない思いも聞いておくれ」 アルコールが入ってほろ酔いになったレミーは、目の前に並ぶグラスを見つめながら真顔になり訥々と語り始めた。 「うん、どうしたの?」 ファミが、彼女の沈んだ表情に気づいて声をかけた。ソラも隣で静かに耳を傾ける。 レミーは一瞬、ためらうような素振りを見せたが、やがて深く息を吐き、静かに口を開いた。 「この町にいる限り、私の未来や運命は決まってる。それが嫌なの」 ソラが少し眉をひそめ、 「決まっている?どういうこと?」 と尋ねると、レミーは苦笑しながら続けた。 「あたしの家はね、代々続く占術士なの。父も祖父も、その前もみんなこの町の行く末を占術によって導いてきた」 町や政治の方針を決める仕事を担う人々が存在することは、ソラも知っていた。 「あたしも家業を継ぐのは当然のことだと思ってた。で、もうすぐ親父からその任務を引き継ぐってことになった。でも、心のどこかで、ずっと疑問に思ってたの。この町を一歩も出ないまま、私は一生を終えるのかって。外の世界がどんなものか、見てみたいって気持ちが抑えられなかった」 彼女はその場で立ち上がり、カウンターに手をついて熱っぽく語り続けた。
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