山の灯火

ファミは遠くを見るような視線を窓の外に向け、しばらく物憂げな表情のまま黙っていた。重たい時間が流れる。彼女の指先はカウンターの端を掴んでおり、白くなるほど力が入っているのが分かった。その目には深い悲しみと、決して癒えることのない痛みが宿っていた。
しばらくして、ファミは目を細め、ゆっくりと口を開いた。
「……彼が戻ってくるなんて、ただの幻想だってわかってる。それでも私は灯りを消すことはできない。この灯りを灯し続ける限り、私もここに生き続ける理由がある気がするの。毎晩町を照らす鐘楼の灯りを見るたびに思うの。もし、私があの時……」
彼女の声はかすかに震え言葉を絞り出した。その瞳には、遠い記憶を追いかけるような苦悩が浮かぶ。それはどこか無力で、彼女の孤独な決意がより一層際立っていた。
ファミは静かに息を吐き出した。その吐息には、言葉にならない苦しみと後悔が重くのしかかっているようだった。
「彼はファミさんが自分を閉じ込めることを望んでいるんでしょうか。ファミさんは、もう十分に過去と向き合ってきたんじゃないですか？」
ファミは静かに首を振った。
「ソラくんの言う通りかもしれない。でも、私はこの町を出ることが怖くて仕方がない。山が許してくれないんだと思うの。灯台を守り続けていれば、少なくとも彼が最後にいた場所に私はいられる」
「ファミさん……」
レミーはファミの言葉を聞いて俯き、少しだけ顔を上げた。
「あたしは……あたしは間違ってないかな？ 」
ファミは優しく微笑んだ。
「誰だって、自分の人生をどう生きたいかを考える権利があるわ。外の世界に出るかどうかは、最終的にはあなた自身が決めること。自分が本当に何を望んでいるのか、しっかり見つめてあげて」