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山の灯火
『町があった。
この町が他の町と大きく異なるのは、四方を高くそびえる砂礫の険しい山に囲まれ外界から完全に遮断されていたことだ。頂上はいつも雲に覆われて麓の町からは頂上の姿を窺い知ることは叶わなかった。
山の中腹にただ一軒ある酒場・ベルクライト。
酒場は上部が教会の屋根にも似た鐘楼になっており、日が落ち町に夜の帳が下りると鐘楼から強く温かな光が放たれ町を照らす。風雨が強い夜でも灯火は絶えず、町の人々に安心を与える象徴でもあった。
古びた木の扉が重く軋む音を立て、やや冷気を含んだ風とともに開かれ、ソラ青年が重い足取りで入ってきた。
山の険しい道を進んできたせいか、顔には疲れが見えるが、それでも目の奥には燃えるような情熱が宿っていた。彼は一瞬だけ店内を見渡すとテーブル席に着いた。
女主人はカウンターの奥から「いらっしゃい」と愛想よく出迎えると、優雅な動きで、棚からボトルを取り出し、カウンター席に陣取った女性のグラスに酒を注ぐ。
ソラは肩に担いだ荷物をドサリと床へ無造作に放り、無言のまま一息ついて疲れた身体を椅子に預けた。
「ずいぶんお疲れのようね。山道は険しかったでしょう?」
ソラはうっすらと笑みを返し、頷いた。
「きつかったよ。でも、まだ頂上にはたどり着いてないんだ。ここで少し休憩して英気を養おうと思ってね。」
「ようこそ勇者さん。たいしたおもてなしはできないけど、ゆっくり休んでいって。私はこの店の主人ファミドーレよ。ファミって呼んで頂戴」
ファミはこの山中の酒場「ベルクライト」の主であり、町の誰もが知る山の灯台の守り人でもあった。
ファミは手際よくソラの前に温かいスープと一杯の酒を置き彼の向かいに座った。
「こんなとこまで登ってきたみたいだけれど、何か特別な目的があるのかしら?」
ソラはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
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