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その後、アパートに戻った俺はこの時の出来事を忘れた。
いや、正確には忘れようとした。が、仕事を終えてふっと気が抜けた時など、否応なしに脳裏でループ再生されて、そのたびに俺はうんざりする羽目になった。笑い話として昇華すればまだスッキリも出来たんだろうが、それはそれでリスクがデカすぎて、結局、誰にも明かせないまま頭の奥に押し込めておくしかなかった。
そんな調子で、表向きは何食わぬ顔で日常に戻った俺だが、以前と変わったことが一つある。
「お前、なんか最近調子乗ってね?」
そんな苦言、というか嫌味を、職場の先輩から食らうことが増えた。
まあ、でも、これについては一応原因に自覚があった。何せ俺は、その気になれば誰でも〝消す〟ことができるわけだ。持ち帰った当初は、ただ気色悪いだけだったオッサンの名刺。だがある日、いつものように先輩から掛けの回収の件で詰められていた時にふと、この事実に気づいてしまった。
なんだ、いつでも殺れんじゃんコイツらのこと。
というわけで、俺の新しい日常は案外悪いものではなかった。俺の店に、女の行方を探す刑事が現れるまでは。
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