死体を埋めに山に行ったらお仲間に出会った件

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『ああ、先日の。あの日はお世話になりました。……ふむ、なるほど。始末したい相手がいる。……ふむ……ふむ、なるほど、構いませんよ。引き受けましょう』 「あ……ありがとうございます」  電話を切ると、俺ははぁ、と大きく溜息をついた。よし、これでいい。あとはターゲットを見張って犯行現場を押さえるだけ。  それだけだ。それで全てが終わる。  店を訪れた刑事によると、三日ほど前から行方がわからなくなっていると女の友人から通報があったという。友人とはこの場合、同じソープ店に勤める仕事仲間のことだろう。まぁ、そのあたりの事情は今はいい。問題は、なぜ刑事が俺の店を訪れたのかということだ。刑事は、明言こそしなかったが明らかに俺の関与を疑っていた。というのも、女の担当が俺であること、女が俺に対し多額の掛けを負っていることを、その友人とやらの証言で掴んでいたからだ。  このままじゃマズい。  いずれ刑事は知るだろう。女が行方不明になる直前、俺のアパートの最寄り駅に現れたことを。そうなると今度は、あの近辺での女の動向を詳しく調べ始めるはずだ。いくら人気のない寂れた各停駅でも、警察が本気で調べ上げれば当日の女の動線を突き止めるなどわけもない。  何にせよ、捜査の手が俺に伸びるのは時間の問題だった。  それを避けるには、もう、この手しか残されていなかった。俺の代わりに、あのオッサンを犯人として売るしか。  計画はこうだ。  まず、オッサンに殺人を依頼する。ターゲットは誰でもいい。せっかくなので、店でデカい面をする先輩を消してもらうことにした。実力もないくせに若手をいびる嫌な奴で、たとえ殺されようが良心を痛める心配がなかったからだ。  あとは、この先輩をひたすら見張る。やがて、どこからともなくオッサンが現れて先輩を殺す。それを写真に撮り、あるいは動画に残す。で、先輩を殺したオッサンは当然、死体を埋めにあの山に向かうだろう。いや、今回は別の山かもしれないがそんなことはどうだっていい。とにかく、オッサンが作業を始めたところで警察を呼び、絶賛死体処理中のオッサンを現行犯で逮捕させる。  裏切られたオッサンは当然、俺を売るだろう。  だが、そこは俺もぬかっていない。オッサンへの連絡用に使ったのは裏の伝手で入手した使い捨てのプリペイド携帯。それも変成器つきの特注品だ。たとえオッサンのスマホから俺の電話のデータが出て来たとして、そこから足がつく心配はない。  そうして万全の準備を整えた上で、俺は先輩の監視を始めた。退勤後は先輩のマンションまで尾行し、先輩が帰宅するとそのままマンションの前に待機、出入りする人間をつぶさに観察する。やがてオッサンが現れ先輩のマンションに侵入したら、すぐに向かいのビルの非常階段に上り、先輩の住む部屋を外から隠し撮る。そのための動線もカメラのアングルも確認済みだ。  準備は万端。あとはオッサンが先輩を仕留める瞬間を待つばかり。改めて見直すと、自分でも感動するほど完璧な作戦だと惚れ惚れする。俺の罪を誰かに肩代わりさせるついでに、ムカつく先輩まで処分できるなんて。  そんな俺の完璧なはずの計画は、一本の電話によって瓦解する。 『終わりました。これから死体を運びますので、処理を手伝ってください。詳しい場所は、追ってお知らせします』
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