死体を埋めに山に行ったらお仲間に出会った件

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「な、なんで……」  混乱する頭をどうにか鎮めつつ、夜の山道に車を走らせる。  場所は、前回とは違う山。ただ、あのオッサンがわざわざ選ぶほどだ。死体を埋めるのに好都合な土地ではあるんだろう。  電話でオッサンは言った。死体はすでにマンションから運び出し、これから指定の場所に向かう、と。だが、どうやって? 俺はずっとマンションの前に張っていた。その監視の目をかいくぐり、一体どうやってマンションに侵入したのか―ーだけじゃない、殺した先輩をどうやってマンションから運び出したのか。……わからん。だが、オッサンの口調に嘘は感じられず、何より、下手に否定すれば俺がマンションを見張っていたことがバレてしまう。っつーわけで、素直にオッサンが指定した山へと向かった俺だが、それでも、頭の奥から溢れる「なぜ?」は止められなかった。  やがてナビが、目的地への到着を告げる。  ヘッドライトが描く環の奥、狭い道路の中ほどに異様な影を認めたのはその直後だった。 「っ!?」  思わず踏み込んだブレーキで上体がつんのめる。幸い、衝突は避けられたらしく衝撃はない。サイドブレーキを引き、ヘッドライトを灯したまま車を降りると、俺は慎重な足取りでそれに近づいてゆく。 「ひっ!?」  それの姿に気付いた瞬間、覚えず悲鳴が漏れる。それは、オッサンが電話で殺したと俺に伝えた先輩だった。その先輩は、いかにも部屋着らしいスエットの上下を身に着けている。本当に……マンションで寛いでいるところを襲われたのだろう。  その先輩の胸に突き立てられたものに、俺はさらに息を呑む。  それは一本の包丁だった。おそらくは心臓を一突きしたそれが先輩に致命傷を与えたことは、医者でなくともわかる。そして―ーその凶器に、俺は確かに見覚えがあった。 「こ、れって、まさかーー」 「そこのあなた」 「えっ」  不意打ちのような背後からの声に、思わず身を竦める。おそるおそる振り返ると、俺を照らす車のヘッドライトを背に二つの人影が立っている。その真っ黒な影から感じるのは、お世辞にも好意的とは言えない敵意と猜疑に満ちた眼差し。 「その人は?」 「えっ? ……あ、ええと」  言い淀む俺を押しのけるように、影の一つが先輩の死体に駆け寄る。光の中にようやく現れたのは、俺の仕事場である新宿の街でもお馴染みの青いベスト。そのベストに記された白文字は―ー「警視庁」 「あ、あの、どうしてここに」  そう質問して初めて、俺は自分の間抜けさに気付く。これじゃまるで俺が犯人だと言っているも同然じゃないか。違うのに。俺じゃないのに。 「先程、署に通報がありまして。ここの山道で遺体らしきものを埋めている不審者がいる、と」  そう答える男の口調は、やはり色濃い猜疑に満ちている。明言こそ避けているが、俺がその不審者だと内心疑っているのだろう。  一体、誰がそんな通報を……?  その通報者は、少なくとも、ここに死体が転がっていることを知っていた。日に一人通るかも怪しい、人の灯りとも無縁な夜の山道に……いや、知っていたんじゃない。そいつこそが死体を置いた張本人なのだ。そして俺は、そいつにまんまと嵌められた。  ああ、そうだ。先輩の胸に突き立てられた包丁。これは、俺があの女に突き付けられた―ーそして、女を返り討ちにした時のそれだ。でも、あの包丁は女と一緒に埋めて……いや、オッサンの指示で女の身体から衣服とアクセサリーを剥ぎ取るとき、妙な物足りなさを感じた。  あの違和感は、すでに包丁が消えていたから。女の胸に突き刺し、死体もろとも埋めるつもりだった凶器。 「すみません、署でお話を伺っても?」  もう一人の警官が、やんわりと、だが有無を言わせない口調で俺に声をかけてくる。ああ、そうか。俺は嵌められたのか。オッサンを嵌めるつもりで、逆に嵌められた。考えてみれば、最初から無茶な話だったのだ。明らかに何人も殺していて、その上でなお尻尾を掴ませていないプロを相手に、俺は何を。
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