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連帯責任と言う言葉が浮かんだ。なんとなく、想像がついた。そういうことがあったから、年寄りたちが憤慨しているのだ。
「そもそもお膳の用意ができているのなら、なぜ祠の鍵がないんだ。鍵は同じ家の預かりだろうが」
その場にいる数十人いる男たちが、僕を見た。苛立ちの圧を受けながら、僕は必死に姉の話を思い出した。
「た、たしか、佐々家に行ったら、お嫁に来たばかりの人しかいなかったと」
「あっちの組もやらかしていたのか!」
「どうなってんだ!」
男柊の怒りの向きが姉のとろから、隣班へと広がった。
祭祀どころではない。殺気立つ集会所に、僕は思わず逃げ出そうかと出口に目をやった。
「とにかく、佐々家へ誰か行ってくれんか」
ここの班長という老人が、ぽつりと言った。
「祭祀は本日、執り行わなければならんからな」
神さまとの契約なのだ、延期は許されない。なあなあにしていい相手ではない。
じぶんが行ってくる、と畝さんが名乗り出ると、さっと出て行った。
僕は居た堪れなくなって、一緒に外に出た。出たところで姉に電話した。
姉は出なかった。メッセージを送ったが、既読もつかない。家電をしても、呼び出し音が続くだけだった。
あれほど家を空けるこをを渋った姉が電話に出ないのはおかしい。
またも嫌な予感がして、僕は走った。
家に上がると、姉はトイレの中から応答した。
「吐き気が止まらないのよ」
弱弱しい声だった。
「救急車を呼ぼうか」
「お願い」
隊員に付き添われた姉の顔は真っ白だった。聞けば、僕が出かけた後すぐにおかしくなったという。
「指先が変色してますね。何かへんなものを触りましたか?」
姉は小さく首を振った。
「食あたりだけではないような」
隊員は、ふと、ダイニングテーブルに目をやった。お供えの準備をしていた皿に、ハムの詰め合わせの箱が、そのまま放置されていた。
「……まさか、ハムを口にしましたか?」
姉はうなずいた。
隊員はそれを見ると、ああ、と大きなため息をついた。
「お供え当番の家なのになんてことを」
姉は隊員を訝しげに見た。
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