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集会所に戻ると、年寄り連中に囲まれた。ずぶ濡れのまま事の次第を告げる年かさの男に、周囲は静かに怒りを滲ませた。
「なんという罰当たりなことを」
「あの家は祭祀を何だと思っておるのか」
「嫁はしかたないとしても、昌義まで」
「あれは結婚するまで長らく他所で暮らしておったから祭祀をわかっておらんのじゃろうよ」
「それにしたって子どものころには見ておったろうが」
僕はそっと畝さんに訊いてみた。
「なぜ、昌義さんが悪いのですか」
畝さんは口をへの字に曲げて僕を見た。
「お供えは女子衆の仕事、鍵預かりは男衆の仕事と決まっているのだ。それを違えるというのは祭祀を、神さんを侮辱しているということになる」
そんなことまで決められていたのか。僕の表情に気がついたのだろう、畝さんが続けた。
「我々がつつがなく、先祖代々、畑仕事を続けられ、豊かな食事ができるのも、お山の神さまの胸一つなんだよ。畑を潤す水もあの山からの恵みだ。天災に見舞われず、村が豊かになりこうして町へと発展できたのも神さんのおかげだ。その神さんに礼儀をもって感謝の気持ちを捧げるのが祭祀だ。失礼のないようにと決められた手順を守らないのは、感謝の気持ちがないのと同義。ここに一人でもそんな奴がいたら、来年の作物がどうなるか……」
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「過去にそういったことがあったんですか?」
畝さんは黙ってうなずいた。
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