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この国で最も美しい霊峰と呼ばれる白霊山。その山に登る途中で、彼は行方不明となった。わたしが聞いた彼の最後の情報だ。
彼の職場の同僚によると、彼は上司とうまくいっておらず、悩んでいたらしい。もしかすると、思い詰めて一線を越えてしまったのではないかと言うのだ。その話を聞いた直後は、とても信じられなかった。
彼は自分の仕事のことをほとんど話すことはなかった。それは、仕事とプライベートを切り離しているからだと思っていた。もし本当に悩みがあったのなら、どうしてわたしに打ち明けてくれなかったの?
一緒にランチを食べたあのとき、わたしと会うために、仕事を抜け出してくれたのは、何かを打ち明けるためだったの?
既読のつかないメッセージを見つめていると、次第に手が震えてくる。
彼は未だに行方不明者の扱いだ。遺体が見つからない以上、まだどこかで生きている可能性もある。わたしだって、信じたい気持ちはある。でも、三ヶ月は気持ちを揺るがせるには十分な時間だった。
いずれにしても、わたしには確かめる義務がある。だから、誰にも打ち明けずに一人で霊峰を目指すことにしたのだ。
本格的に山に登るなら、しっかりした準備が必要だ。わたしはこの日のために一月かけてトレーニングをしてきた。毎日体を鍛えていた彼からすれば、まだまだ準備不足なのだろうけれど。
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