料理教室

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 レモンから放たれる爽やかな香りが空気を満たし、薄暗い部屋の隅々まで浸透していた。皮の表面には無数の微小な粒が光を弾き、瑞々しかった。  ユウタが指で触れると、僅かなざらつきが指先に伝わってきた。冷たく硬い果皮が、少しの圧力で弾力を示し、しっかりと反応を返してくる。その奥には果肉が無数に詰まり、緻密な網目のように整然と並んでいる。  果肉の一つ一つの小部屋に、透明な果汁が薄い膜で囲まれ、内圧によって膨らむ。さらに彼がレモンをつまむ指先に力を込めると、レモンの内側で、液体が揺れた。そして、次の瞬間、彼の皿の唐揚げにその果汁が飛び散った。  ふと顔を上げると、目の前のナツミが、上品にレモン絞り器を使って唐揚げにレモンをかけているのが見えた。ユウタは一瞬で、自分が失敗したのだと悟った。  指でそのまま絞ったレモンの汁が、唐揚げの表面を不均一に濡らし、テーブルにもいくつかの飛沫を残している。彼は心の中で、自分の振る舞いが無作法だったと確信して、奥歯を噛み締めた。野蛮なやつだと思われただろうか。
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