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ユウタは、こんなお見合いの席に唐揚げを出した料理人を呪った。もっと無難な料理なら、気まずい思いをしなくて済んだのに。ナツミは、彼の様子を見て、微笑んで言った。
「レモン、お好きなんですね」
その声は思いのほか柔らかく、彼の心に穏やかに染み渡った。
「ええ、好きです」
そう答えたものの、言葉は喉の奥で詰まりそうだった。彼は唐揚げの皿をじっと見つめ、どうにか会話を続けようと考えたが、頭の中にはただ彼女の上品な所作と、自分の不器用さが繰り返し浮かんでいた。
唐揚げを箸でつまむ彼女の指先は、しなやかで、彼の目にはそれがとてつもなく優雅な動きに見えた。
「実は、私もレモンが好きで……」
ナツミが続けた。彼女はレモンを挟んだレモン絞り器を持ち上げ、透き通った果汁が垂れ落ちるのをしばらく見つめてから、微笑みを浮かべた。
「この酸味って、何だか気持ちを切り替えさせてくれる感じがするんです。リフレッシュされるというか」
その言葉を聞いて、ユウタは少し驚きながらも安堵を覚えた。ナツミがさっきの無作法な振る舞いを見なかったことにすると言ってくれているような気がした。
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