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護衛騎士
「エマはこの後何するの?」
「私はたのんでおいたドレスを受け取りに行きます!にいさまは剣のお稽古ですよね?」
「そうだよ」
そうなのか。
剣の稽古なんて初耳。
情報をありがとう妹よ。
などと世間話に花を咲かせている俺たちが今歩いているのは、キャンベル家の庭園。
あの後、散歩をしようと提案してきたエマに手を引かれて気付けばここに居たのである。
にしても、規模がでかい。
王家に次ぐ公爵家の家柄だとゲーム情報で知ってはいたが、観光などに全く興味がなかった前世の俺は金閣寺以上の派手な建物には出会ったことがない。
映像ではいくらかあったとしても、それは実物とは比べ物にならないという事を今現在、身に染みて理解していた。
(ああ、そう言えば確認しておきたい事があったんだ)
ふと、ゲーム内の設定で気になる点があったことを思い出し、丁度その付近にいる今確認しておくべきかと周囲に目を回す。
見つけた。
どうやら本当にアレは存在するらしい。
…が、俺はそれに近付こうとはしなかった。
何故なら見張り兼護衛が常に俺たちの傍で待機しているからである。
護衛さんには絶対にバレてはいけない。
なぜなら奴らはすぐ父に報告するチクリ魔だから。
今回はアレがちゃんと存在するとこを確認できたし、また別の機会に1人で抜け出して調べてみるのが良いだろう。
と、思案したその時、後方に待機していた護衛の1人が前に出てきてスッと頭を下げた。その横には侍女さんも控えている。
「エマ様」
「もう、じかんですか?」
「はい。お着替えもございますので」
そう言って穏やかに微笑んだ護衛の顔はこれまたイケメンだ。
流石に俺やエマほどの美貌ではないけど、例えるなら保育園の先生でシングルマザー達に狙われるも全てを上手く躱してのけるような計算高い爽やかタイプ。
言うまでもなく関わったら面倒臭い、絶対に。
「それではにいさま、失礼いたします」
「うん。また後で」
まだ行きたくない、という顔を隠しもせず眉を下げながら侍女に連れられていくエマの愛らしさに思わず笑みが零れる。
そして暫く俺はその後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
その時。
「坊ちゃん」
「うわ!」
「うわっ!?」
急に後ろから声を掛けられ反射的にバッと振り返る。
すると声を掛けた本人も何故か驚いたように声を上げ、ぶつかった視線は逸らされることなく数秒。
体感は10分。
先に拘束を解いたのは相手の方だった。
「もおー…なんですか?大声出して」
「いや驚いて」
「え?いつもなら驚かないのに」
「……今日は調子が悪いんです」
「それはそれは。怖い夢でも見ちゃいました?」
「まあ、」
何とか誤魔化せたのか、彼は「そうですか」とあまり深入りはして来ずに会話は途切れた。
と思ったのも束の間、どうやらおしゃべりらしい彼はひとりでペラペラと独り言のように愚痴やら世間話やらを溢しはじめる。
こんな一方的な会話は初めてで、俺は少し戸惑った。
まるでラジオを聴いているようだから。
そんな戸惑いを知る由もない彼は喋り続け、ある時ふと思い出したように話を辞めた。そして俺と向かい合い、二ッと爽やかな笑みを浮かべる。
さっきの騎士とは違い、計算ひとつ見られない自然な笑顔だ。
「そういえばまた縁談の話きてましたね」
「縁談?」
「とぼけちゃって〜」
恋愛話に敏感な思春期男子のようにウキウキと話す彼に何なんだ、と一瞬眉を顰めたが、俺はすぐに納得した。
それは彼の年齢が17歳くらいだったからだ。
こんなに若いのに公爵家の護衛に就いているなんて物凄い能力があるんだろう。
実際、体も平均より分厚くてよく鍛え上げられているようだし……。
「……そういえば、剣の稽古は何時からでしたっけ」
「あ」
ふと腰にかけている剣が目に入って、どこか嫌な予感がしつつ問かければ、案の定彼は忘れていたというように短く声を発した。
その瞬間、俺たちは慌てて稽古場に向かったが満面の笑みで出迎えてくれた先生から、2時間みっちり搾り取られることになる。
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