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転生
まぶた越しに光を感じて、目を開く。
もう朝なのか。
いつもならこんなに早く目が覚めることは無いのだが、今日は久々に脳がスッキリしていて起きる事に抵抗がなかった。
「ん…?」
にしても俺は日光で目覚めるような健康な目覚まし法をとっていただろうか?
否、普通に目覚まし時計を愛用していた。
じゃあなんでこんなに光が差し込んでるのか。
カーテンを閉め忘れた可能性はかなり低いし、まず開ける習慣が俺にはない。
寝起きで回らない思考回路の中、慣れない光にぼやける視界を腕で擦れば、段々と解像度が上がっていく。
その最中、既に俺はなんとも言えない違和感を抱いていた。
「…天井たっか」
天井が高い。
意識が覚醒してからの第一声と、違和感はそれだった。
これぞプロ根性。
スポンサーも感嘆する程のプロ意識だ。
また高い天井だけが取り柄というような家CMの依頼が来るかもしれない。
なんて、こんなありえない状況に考えることではない。
今この状況で1番有り得ることといえば……
誘拐?
うん。
過去に1度あったし人気者の俺なら有り得るかもしれない。いや絶対そう。
だって俺家に居たはずだもん。
目を開けて真横に犯人がいたらどうしよう…、と恐る恐る手に汗握りながら首を横にずらす。
…が、それは杞憂に終わり、人っ子1人いなかった。気配すらない。気まず。
なんなら目かっぴらいて首だけ横に向けた俺のが恐怖かもね。
よいしょっ、と体を起こし周囲を見渡せば天井の高さに見合った室内で「とんだ富豪に誘拐されたな」とベッドから降りる。
そして、俺は思わず声を出す。
「は?なにこれ」
それは、俺の目線が本来の高さの半分程度になっていることに驚いて出たものだった。
直ぐに身の異変に気づいた俺はバッと駆け出し、立ち鏡に掛けられている布を剥ぎ取る。
「うわっ」
そして現れたのは、簡潔に言うと白い髪が特徴的な絶世の美少年で。
年はまだ7歳程度だろうか。
仕事柄イケメン、美女に慣れている俺でさえ感嘆してしまうほどの整った顔。
いや、てかこれなに?
世に言う転生みたいな?えドッキリ??
と、困惑していたその時グワンと視界が歪んだ。
咄嗟に倒れないよう壁に手をついたが、脳を掻き回されるような、頭痛とは違う感覚に頭を抑える。
例えるなら船酔いを10倍にしたような。
暫くするとそれは、まるで初めからなかったかのように消えたが、代わりに覚えのない記憶が映像のように脳に流れ込んできた。
これは…
「ゲーム……?」
そう。
俺が見たものはゲームのようなものだった。
・・・・・
「にいさま!!!」
時計の針が午前8時を指した頃だろうか。
廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえ、俺の部屋の前で止まったそれは断りもなしに強く扉を開け放つ。
そして彼女は椅子に座って本を読んでいた俺に躊躇いもなく飛びつき、この世の美しいものを全て詰め込んだ宝石のような目でキラキラと見つめてきた。
………うん、愛い。
ゲームの内容を予習し、彼女の情報を整理した上でも愛い。愛らしい。可愛い。尊い。
いや本当にこんだけ可愛かったら我儘でも許せるだろ。いや許せよ。
などと怒りが湧くのは、彼女がのちに悪役令嬢として処刑されてしまうことを知ったからである。
そして、そんな彼女を冷たくあしらう兄に俺が転生したということも理解したからである。
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