25人が本棚に入れています
本棚に追加
月を背に立つ彼の顔は、まるで龍だ。お寺の天井によく描かれている、長いひげをたくわえ角を二本はやした龍。青銀の鱗が月光にきらめく。
作り物とは思えない生々しさがあった。やわらかでなめらかな質感があり、ひげは風にさからってそよぐ。
「な……」
恐怖で硬直する。
龍の目が彼女をぎろりと見た。
人間ではありえないその瞳。青い水晶のように透き通っていて、見ているだけで吸い込まれそうだった。恐怖など吹き飛んでしまう。その瞳に恍惚と溺れてしまいたくなる。
「この姿を見られたからには」
龍が口を開いた。
「私の嫁になるか、殺されるか、どちらかしかない。お前はどちらを選ぶ」
ふいに周囲にもやがかかる。
萌々香は目をしばたいた。
ビルに挟まされた細長い夜空に、真円に近い月が出ている。その月に、おおきな白銀の輪が掛かってた。
不思議……月が……。
見守るうちにもやが彼女を包み、じきに彼女は気を失った。
龍の男性は青い目でじっと彼女を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!