4/12
前へ
/57ページ
次へ
「萌々香?」  異変を察した母が外を覗きにきたときにはもう、萌々香の姿はなかった。  ただゴミ袋だけがぽつねんと残されていた。 * * *  車は10分ほど走り続け、人気のない河原に降りた。  背の高いススキが一面に生い茂り、黒い車の周囲を覆いつくしている。 「ここなら邪魔もないな」  萌々香の口をおさえた男が言い、手を離した。出口側に男二人がいるので、逃げることができない。  満月の青白い光が嘘くさいほどに明るく、骸骨の薄笑いをはっきりと浮かび上がらせた。 「昨日のあいつはなんだ」  骸骨が問う。  萌々香はただ首をふる。  名刺も名前も、今となっては本物なのか疑わしく思える。  どうであれ、ここで彼らに言うのは得策には思えなかった。 「なめてんのか!」  男が怒鳴る。萌々香は泣きそうになりながら身を固くする。  手の中の鱗をぎゅっとにぎりしめる。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加