25人が本棚に入れています
本棚に追加
「萌々香?」
異変を察した母が外を覗きにきたときにはもう、萌々香の姿はなかった。
ただゴミ袋だけがぽつねんと残されていた。
* * *
車は10分ほど走り続け、人気のない河原に降りた。
背の高いススキが一面に生い茂り、黒い車の周囲を覆いつくしている。
「ここなら邪魔もないな」
萌々香の口をおさえた男が言い、手を離した。出口側に男二人がいるので、逃げることができない。
満月の青白い光が嘘くさいほどに明るく、骸骨の薄笑いをはっきりと浮かび上がらせた。
「昨日のあいつはなんだ」
骸骨が問う。
萌々香はただ首をふる。
名刺も名前も、今となっては本物なのか疑わしく思える。
どうであれ、ここで彼らに言うのは得策には思えなかった。
「なめてんのか!」
男が怒鳴る。萌々香は泣きそうになりながら身を固くする。
手の中の鱗をぎゅっとにぎりしめる。
最初のコメントを投稿しよう!