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地元となるとさすがに仮装をしたお化けはおらず、駅を出た人々はまっすぐに帰路につく。萌々香も当然、自宅へと向かった。
人気は減る一方だが、月が明るく道を照らしている。お酒のせいもあってか、いつもより夜道への不安は少ない。
萌々香はがらんとした商店街へと入る。
アーケードで覆われていて月光はなくなったが、街灯が明るく照らしていた。
店はどこもシャッターが閉められ、閑散としている。
夜十時ともなれば買い物客などいるわけもない。
昼間は歩行者専用になっている道路を、業者の車がときおりゆっくりと走って行く。
生まれ育った商店街だった。昼間はにぎやかで萌々香を温かく包む良き隣人だ。
が、眠りについた夜の商店街は急に萌々香を他人にする。
シャッターは冷たく目を閉じ、道路は黒々と沈黙している。
まるで異邦人のように萌々香はその端っこを歩いた。
萌々香の自宅はこの一角にある。彼女自身は別の会社で働いているが、両親が和菓子店を営んでいて、一階が店舗、二階と三階が住居になっている。
あと少しで家につく、というところで、人の声がしたような気がして、アーケードの切れた横道を覗き込む。
街灯のないビルの暗がりに三人の男がいるようだった。その足元には男の子がうずくまっている。
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