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大晦日 同窓会当日
指定された居酒屋に向かったが、少し遅れてしまった。
同じクラスだった女子の峯田が受付担当らしい。会費を支払ったあと、
「皆ー、西山君がきましたー!軽く自己紹介してもらうね。」
「えーっと、西山です。今バイトをしながらバンドマンをしてます。今日はよろしくお願いします。」
「はい、西山君ありがとう。席はあの空いてる所ね。」
峯田に指定された席に着くと、周りの子数人と乾杯をして、既に始まっていた飲み会に合流した。
同級生のほとんどは社会人歴3年以上で、他の子達は「仕事何しよるん?」という情報交換をしたあと、「新人社会人の苦労話あるある」が主な話題の中心だった。
僕も全く働いて居ない訳ではないが、指示をこなすだけのアルバイトと、会社の戦力の1人としてのサラリーマンや自営業者は、仕事に対する気概が全く別物であるのが会話を聞いてるだけでも十分に伝わって来た。
たまに僕に気をつかって、「西山、好きなことでやれてるなら羨ましいよ。頑張れよ。」と声をかけてくれる者も居た。
自分もメジャーではなかったが、ライブハウスの舞台の上では、お金を頂いている以上、必ず満足してもらえるよう演奏していたし、プロと対バンであってもほとんどのバンドには負けてる気はしなかった。
皆の戦いの場は”職場”であり、僕の戦いの場は”ライブハウス”だった。
2次会のカラオケ後、ちょうど24時を迎える時間となり、少し雪がちらつく中、皆で近所で一番大きい神社へ歩いて初詣へ向かった。
その時「隆君、久しぶり。」三年生の時の彼女だった真希が声をかけてきた。
「元気そうやね。まだバンドしよるの?」
「まあね、結構頑張ってはいるんやけど。」
「ふ~ん。」 真希は何か言いたそうだったが、言葉にはしなかった。
全員で階段を昇り、初詣の参拝をし、お互いのおみくじで盛り上がり、家族や個人で来るのとは全く違う、”新年を迎えた喜びを同窓生の皆で共有する”という稀有な時間を過ごした。
帰りの車で友人の日村が、「西山君、真希ちゃん、方向一緒だから送るよ。」と言ってくれて、3人で家路へ向かった。
真希は日村とは社会人としてのお互いの業務の会話をし、どういうプロジェクト に参加しているか、どういう勤務状況なのかなど、全く僕は会話に入ることはできなかった。
先に真希をおろし、日村は僕の家付近まで送ってくれた。
こうして、高校卒業から7年経った同窓会の夜は懐かしさと、皆との現状の違いで感じた不甲斐なさを噛みしめる夜となった。
貯金に全く余裕のなかった僕は、夜行バスでまず大阪まで移動することになった。
雪のため実家からバスターミナルまでタクシーで向かった。
途中、ホテル業務のシフト調整の電話がかかってきて、「その変更でOKです。」と応えた。
夜行バスは仮眠後にカーテンを少し開いて外の風景を観ると、さっきまでいた田舎の田園風景から、一気に都市部のビル群の風景に切り替わっていた。
朝の6時頃には梅田のバスターミナルに着き、電車に乗り換えるまでの時間を近くのコーヒーショップで過ごした。
ガラス張りの壁のカウンターの客席で1杯のコーヒーを飲みながら、バンドにかける将来への夢と不安と、先日の同窓会で感じた不甲斐なさがごちゃ混ぜになったなんともいえない気持ちで、25歳の隆は大阪駅周辺の大きな横断歩道を渡る大勢の人を見つめていた。
電車の時間が近づいたので、飲み終えたカップをトレイごと棚に置き店を出た。
僕は僕なりの方法でこれからも日々を戦っていかねばならない。
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