髭売る男

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 男は早速、ムラタ氏と連絡を取る事にした。  だが、連絡を取ろうにも、男は電話を持っていなかった。  家の電話も、()うの昔に線を抜いてしまっている。通じていない。  どうしたものかと思案したが、やっぱり携帯電話を契約するべきだと思った。  ムラタ氏は、人類史上(まれ)に見る偉大な大発明家であるのだ。  見る()に世の中では『髭売買取引(ひげばいばいとりひき)』なるものが盛んに行われる事になるであろう。  市場(しじょう)ができ、誰もが気軽に取引に参加できる。  そうなれば、自分などは多勢(たぜい)()もれてムラタ氏と直接交渉する事など叶わなくなる。  また、売る者が多くなればなるほどに価格も下落する。  機先(きせん)(せい)する。  出来るだけ早く、ムラタ氏と連絡を取り、髭の独占売買契約をとり結ばねばならない。  男の心は明るい前途に高揚し、気色(けしき)勇ましく、酒も飲まぬのに上気し、頬が赤らんでいた。
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