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男がいる
四十がらみ、背はそう高くない。
近頃でなら低い方に入るかもしれない。
酷くものぐさである。
働く事もせず、毎日親から譲り受けた家の庭に、丸椅子を持ち出して腰を掛け、唯々ボーっと口を開け、空を見上げて過ごす。
何もしない割には酷く痩せている。
何せ食べる事も面倒くさい。
この男は、その部分に於いては殊更に徹底していた。
では、いつからそうなったのか。
恐らくは三度目に職を失した時。
その頃はまだ、職さえ見つかればまた出直して、家族を養おうというくらいの気概はあった。
だが、妻子はそれに付き合いきれなかった。
男は働きはするが、それと同じだけ遊ぶような人間だった。だから無理もない。
一人になってから、男は判り易くダメになった。今まで以上に無気力になり、職を探す事もしなくなった。
初めのうちは幾らか遊興費も都合をつけることができたが、半年も続かなかった。
父母の残した蓄えも風前の灯。
だから今は、仕事もしないが遊びもしない。その位の分別はあった。
ただ毎日、庭で空を見て過ごす。
雲はああして絶えず流れてはいるが、果たして自分の意思で流れているのであろうか。
恐らくは風に任せて流れているのであろう。でなければ、一つくらい反対の方向に流れて、行き違う雲があって当たり前だ。
雲が風に流れるように、己も何かの力にただ頼るだけで、世を流れ渡って生きる事はできないものだろうか。
男はいつでも、そんな風に考えていた。
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