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何かの力に頼るとは言っても、そう易々とそんなものは見つからなかった。
だから男は当座のところは自分で考え、方便を求める必要があった。
男は酷いアレルギー体質であった。
花粉症に限らず、年中酷い鼻炎を患っている。
血液検査もしてみたが、スギやヒノキに加えて、イネ科にネコ、金属、ラテックス、ハウスダストと有りとあらゆるアレルゲンに反応があったのだった。
これは妻子ある時からの事で、随分長く悩まされるうちに、それ程の悩みとは思わなくなっていた。
男はふと思い立った。
─ 例えば伝染病の特効薬の原料になるとか、良質のタンパク質が最も効率的に採取できるとか、血液精製に欠かせない成分を含むとか、この鼻汁について、これまでの人類の常識を覆すような新発見がもし今後、明るみになるとしたら、毎日毎日、己は何と勿体ない事をしているであろうか。
ならば、一つ、もしもの場合に備えて、これを貯め置く事にしよう ─
その日から、男は寝起きしている玄関脇の和室の空の床の間に、鼻をかんだ塵紙を軽く丸めて貯め込んでいった。
幅一間、奥行き半間の狭い床の間は、もうこの一月で三分の一ほどが丸めた塵紙で埋められてしまっていた。
ただやはり、一月そこらでは男の思うように事は運ばない。
テレビのニュースで、鼻水が世界を救うと言う話は、やっぱり聞こえてこなかった。
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