髭売る男

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 ある日、珍しく、男の家の郵便受けに何かの紙切れが入っていた。  新聞も()うにやめているし、手紙を寄越す者などいなかった。  取り出して見てみると、 『急募!!髭を集めています! ご不要の髭がございましたら、大至急ご連絡下さい! 謝礼、お支払い致します。 ムラタ ×××ー××××ー××××』  何気(なにげ)なく、丸めて捨てようとした男は、これを二度見して、そしてもう一度よく目を通してから、小躍りして喜んだ。  この手のチラシは怪しいものが多い。  そして、このチラシとて怪しくないかと問われれば、どうして怪しいには違いない。  『急募』とは如何(いか)に。用途が分からない。  けれど、(およ)そ人類史に残る大発見、大発明などと言うものは、その時の常識に真っ向から背くような、奇想天外な事柄であったであろう。  誰でも容易に思いつく事ならば、それは寧ろ、大発明とは言えない。  きっとこれは、その最初の一歩なのだ。
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