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「――失恋する度に、ここに来るんです」
偶然立ち寄った、ひとけのない寂れた山小屋。
そこで出会った男が、コーヒーを片手にそう発した。
「自然に心を癒やされ、山が全てを消してくれる気がするんです」
「なるほど。分かる気がします。いい山ですよね」
僕も頷きながらそう返す。
外はすっかり闇に覆われ、星が瞬いていた。
「あなた、荷物は、どこに?」
「小屋の外です。あなたの荷物は?」
「私のは、小屋の裏にあります」
男は腕時計に目を落とした。
「私はそろそろ行きますが、あなたも行きますか?」
「そうですね。ご一緒しようかな」
「そうしましょう。二人の方が何かと便利です」
男と僕は、スコップを手に小屋を出た。
そして荷物を引き摺りながら、山の奥へと進んだ。
この山に詳しい人に出会えて、僕はラッキーだな。
本当にいい山だ。そう思った。
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