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石階段を上り切った所で、じい様がこちらを見ていた。
送ってくれた爺さんは、老いても元気な気の良い爺さん、という感じだった。若い頃とは随分変わったのだと思う。
一方で、じい様は老いを威厳として刻んだようで、頭の白いものと皺以外に老いの要素を見つけられない。若い頃が容易に想像できてしまう。
「久しぶり、待ってくれてたの?」
「まさか。車の音がしたからな。通販だったら、配達員を煩わせちゃいけねえ」
「通販使うんだ」
「こんな場所まで来させるのは忍びねえが、一度覚えちまうとどうにもなあ」
顎に手を置いて思案する顔で、じい様が迎え入れてくれる。
「弥吉に送ってもらったのか」
助けてくれた爺さんは弥吉という名前らしい。
「道間違えちゃって。裏手の山の方に入り込んでたのを拾ってもらった」
「裏手の山? 弥吉がか?」
「そうだけど、何かあるの?」
「いや、この辺の山は朝霧のもんでな。地元の連中には好きに入ってもらって構わねえんだが、一応みんな一声かけてから行くもんだからよ」
弥吉さんからは一報が無かったということか。
「特に詳しい話は聞かなかったな。じい様の家行きたいならこっちだって、送ってもらったくらいかな」
「何も聞かなかったならいい。今度何か入り用か聞いてみるさ。孫も世話になったしな」
「じい様って義理堅いよね」
「今じゃわからんだろうが、昔は家がちょっとしたもんだったからな。そういう事情もあって、香代子にそう在れ、と言われた訳だ」
「ばあちゃんが?」
「機微に敏いというか、しっかりしているというか。まあ、処世術だろうよ」
それより、と尋ねて来る。
「謙久。お前、何しに来たんだ」
「じい様がボケてないか見て来いって親父に言われた」
「ボケ? 俺がか?」
様子を見て結論を出す算段だったが、いくつか言葉を交わし、姿勢や表情から見てこれはもう問題ないだろうと即決できた。なので、気兼ねなく親父の疑念を暴露してしまうことにした。
「親父がこの前電話した時に、何か様子が変だったってさ。でも、そんな感じしないし」
「そうか。だとしたら、すぐ帰るか?」
「すぐ帰ると何か言われそうだから、じい様さえ良ければ、予定通り四日は置いてよ」
「まあ構わねえが。好きにしてろ、こんな場所じゃやることもねえだろうが」
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