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「外村さん。あの話、本当なの?」 「まさか――前島(あいつ)に限って、信じられないよ」  彼女が剥いてくれたリンゴをかじる。シャクッ、と瑞々しい汁が飛ぶ。シーツに落ちた透明な水滴を、僕は複雑な想いで見つめた。 『――殺人、未遂……ですか?』  集中治療室を出てから3日後。一般病棟の1人部屋に移された僕の元を、背広姿の男性が2人訪れた。  ごま塩頭の年配が地元の刑事で、丸顔に眼鏡の若い方は、僕が発見された山がある隣県の刑事だと名乗った。  ベッドのリクライニングを起こして、2人にパイプ椅子を勧める。一礼すると彼らは並んで腰掛けた。 『恐らく。前島さんが、あなたに生命保険を掛けていたことは、ご存知でしたか』  年配の刑事は、手元の手帳にチラと目を落とし、それから僕の顔を観察するように見つめた。 『――いいえ』  信じたくないという想いを揺さぶるように、背中に掌の感触がジワリと甦る。  突き落とされたことを、僕はまだ誰にも話していなかった。姿を消した前島を探しに行って、暗い斜面で足を滑らせた――警察にはそう伝えてある。  それでも、松茸など山に連れ出して、滑落するような状況に誘導した、前島の意図は殺人未遂に相当するらしい。 『あなたと前島さんは、同期入社だそうですね』  強張った表情を、彼らはどう解釈しているだろうか。俯いたまま、頷いた。 『はい』 『配属部署が離れても、親しかったとか』 『そう……ですね。互いに独身でしたから……たまに飯や飲みに行くぐらいには』 『彼が、会社の金を使い込んでいたことは?』  ジャブを何とかかわせた矢先、死角から鋭いアッパーが飛んできた。  仄かな予感があった「前島に殺意を向けられていた」事実より、彼が抱えていた事情の意外さにダメージを受けた。 『そんな――全く』 『彼が会計報告書を改竄したことは、ご存知ない?』  思わず顔を上げると、年配の刑事が畳み掛けてきた。  アッパーで浮いたボディに重いパンチが打ち込まれたかのように、目の前が暗くなった。 『え……まさか』
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