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3.
「タヨウレーッド! タヨウレーッド!」
シールをゲットした凌二が上機嫌で踊り歩く。残念ながらブラックは出なかったが、二推しのパープルを当てた一哉も満足げな顔だ。
歩道は街灯と月光に照らされ、アスファルトには親子四人の影がいろんな方向に薄く伸びている。スパイラークを出た私たちは、すでに暗くなった道を満腹で歩いていた。
一哉が大人用のハンバーグセットをひとりでたいらげたのは初めてだ。大きくなったなぁ、と感動していたら、
「ママの推しはブルーだよ! イケメンだから!」
と大声で言われて閉口した。
隣にいた家族連れにニヤニヤ顔で見られ、思わず目を伏せる。そんな私に、夫は開けたばかりのシールを差し出した。
「ブルーが出たよ。これはママのだね」
その顔に、馬鹿にするような色は全くなかった。よかったね、運がいいね。素直にそう思ってくれているのがわかる、爽やかな笑顔。まるで結婚前みたいな、彼に恋をしていた頃に戻ったみたいな、懐かしいときめきに胸がくすぐられた。
「ありがとう」
その一言が自然に唇からこぼれた。
夫に感謝を伝えたのは何年ぶりだろう。たかがシール、だけど、大事なのはシールそのものじゃない。好きなものを小馬鹿にされなかった、それだけのことが、自分でもびっくりするほど嬉しかったのだ。
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