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「凌ちゃん、危ないから前見て歩いてよ〜」
財布に入れたタヨウブルーのシールがバッグの中で揺れている。隣を歩く一哉のポケットでも、同じようにパープルのシールが踊っているだろう。そんな想像をしながら、数メートル先にいる次男に声をかけた。さすがに車道に飛び出したりはしないだろうが、五歳男子はまだ何をするかわからない。
「タヨウレッドキーック!」
凌二がそう言って片足を上げた瞬間、その姿がまばゆく白い光の中に黒く浮かび上がった。
「え……っ」
車のヘッドライトが、まっすぐに息子を照らしている。つまりそれは、車が凌二に向かってきているということだ。
一台の軽トラックが歩道に乗り上げ、息子に突進する。その様子が、スローモーションみたいに私の網膜に焼きついた。
待って、やめて。
来ないで!
誰か……っ!!
何もできず、声も出ず、ただ口と目だけを開いた私の目の前で、オーロラ色の光線が軽トラックのタイヤを貫いた。
タイヤが弾け、車が唐突に進路を変える。私たちに横腹を見せてから横転した軽トラックはけたたましい音を立てて路面を滑り、車道の真ん中で停止した。
私の隣で夫が走り出す。彼は凌二に駆け寄ってしゃがみ、小さな体を抱き上げた。
「凌二!」
その時、私は見た。少し細められた夫の目が、オーロラ色に光っているのを。
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