おかえりが聞きたくて

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 今目の前にいる、袖なし半ズボンの無作法な妻を見て、俺は久しぶりにそれらの怒りを思い出した。そして「俺はこの家の主人だ。誰が稼いでやっている!」と怒鳴った。が、妻は動じず振り返りもしない。  仕方なく妻の入っていった居間に続くと、そこには若い男がいた。悪びれもせず、そいつも「誰?」と俺を無遠慮に見てくる。  浮気か。苦労して帰ってきた主人を前に、何て妻だ。  俺は酒も女も博打もやらない。高給取りで出世も順調だったし、近所づきあいも悪くない。妻の誕生日には年の数だけバラを買って帰った。そんな模範的な亭主を軽んじるとは。  そういえば「バラより美容院の方が」などとほざかれてから買うこともなくなったが。 「とっとと出ていけ!」  俺は三下り半を叩きつけた。……つもりだった。  が、彼らは外国人のように両手を上げるだけだった。
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