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だが俺はどうなってもいい。妻と娘の命だけでも助けて欲しい。俺は自分の性癖に二人を巻き込んでしまったのだ。悪いのは俺だ。
髪の毛の持ち主たちに乞うた。
だがその願いは虚しかった。
俺は髪の毛をあまりに取り過ぎたのだ。
髪の毛を拾う時、「いたっ」と声が聞こえた時、やめるべきだったのだ。
そう思ったが、もう遅い。
何年にも亘って、採取された多くの髪は、やがてエネルギー体となり、人を戒める怨霊と化したのかもしれない。
気が付くと、髪が生えているのは口の中だけではなかった。耳からも数十本の長い髪が垂れ下がっている。喉の奥や腹の中にも違和感がある。おそらく内臓にも無数の髪が生えているのに違いない。
髪を取り除くことは不可能だ。髪は体の一部と化している。つまり、髪は肉だ。取り除こうとすれば、内臓を破壊することになる。
だがそんな心配はせずとも良さそうだ。
口の中は、髪の毛だけになっていた。後は窒息死を待つだけだった。
せめて娘の命だけでも・・と思い、
庭を見ると、娘の小さな体を信じられない程の無数の毛が覆っていた。
髪の隙間から娘が手を出して「パパ」と、助けを呼んでいたが、もうどうすることも出来なかった。
呼吸が停止し、俺の生命が閉じる瞬間、娘を覆う髪の塊りの背後に、若い女の姿が見えた。
ああ、俺は取ってはいけない女の髪を採取したのかもしれなかった。
それは怨念を抱いた死者の髪だ。
その薄っすらと見える長い髪の女が、俺を見て嘲笑っていた。
(了)
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