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死霊の髪
◆死霊の髪
「あの子、まだ庭を眺めているわ」
さっき見た時は、何もなかったはずの庭だが、娘が飽きもせずに眺めている。
「もう寝なさい。庭には何もないぞ」俺がそう戒めると、
「パパ、見て」
娘はそう呼んで、「女の人が私を呼んでいるわ」と言った。
娘には大人には見えない何かが見えているのだろうか。
「私、女の人と遊びにいく!」
「待ちなさいっ」
俺と妻が制止するにも関わらず、娘は寝間着のまま寝室を出て、庭に向かった。
「もうあの子ったら」妻はそう窘めたが、その声がおかしい。くぐもった声に聞こえる。まるで口の中に何かがあるかのようだ。
さっき聞こえていた声がより臨場感を持って聞こえだした。
「あ・あ・あ・あ・・」
断続的な女の声だ。身悶えする声にも聞こえるが、恨みを募らせた声にも聞こえる。
妻はその声に導かれるように窓の外を見た。
「あなた、見て。あの子ったら、女の人と遊んでいるわ」妻はそう言って微笑んでいる。
そんなはずはない。今は真夜中の三時だ。
見ると、妻の髪も逆立っていた。
「おい。お前こそ、寝癖が酷いぞ」
俺は戒めるように言うと、妻はゆっくり振り返り、
「口の中に髪の毛が入っているみたい」
妻はニコリと笑いながら、俺の手からハサミを奪い取ると、鏡を見ながら口腔に突っ込み髪を引っ張り上げた。
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