ただいま

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「危ない」 思わず声が出てしまった 対向車線から1台の車が、俺の車の方に向かってくる 俺は、どうにか避けようとハンドルを左にきる スローモーションで車がどんどん近づいてくる (まだ2年しか乗ってないんだぞ) と思っていると、 「ガシャーン」 と大きな音がして、目の前が真っ白になる エアバッグが作動したのだ 前方の被害が、どれくらいか全く見えないが、 (多分買い替えだ) とショックを受ける (ベルト外さないと) と思って、体を動かそうとするが身体中に激痛がはしり、動かすことができない 「大丈夫ですか?」 と大きな声が聞こえてくる 俺は、首を少し動かした (これじゃ早く帰れないな) 今日は、早く帰って妻と娘と外食する予定だった 先日のピアノの発表会で娘が、上手に弾けたからだ (せっかく順調に顧客周り出来たのに) と残念でならない (風香、ごめんな) と心の中で謝っているとだんだん瞼が下がってくる 救急車のサイレンの音が近づいてくる (もしかしてこのまま死んじゃうのか) と思うと、とても悔しい まだまだやりたいこと、行きたい所、食べたい物がたくさんある 一番はやはり風香の成長が見れないということだ (絶対に生きる) そう思っていても視界が完全に暗くなった 名前を呼ばれているのは分かる 救急車に乗せられたのも分かる 病院でよく聞く機械の音も分かる でも体が動かない (もう駄目なのか) 俺は、このまま目を閉じたら、もう開かないかもしれないという不安の中で目を閉じた (もし目を開けられたら色々なことをどんどんやっていこう) そう思っていると眠りにおちていった 先程まで聞こえていた機械の音が聞こえる 目を開けるととてもまぶしく、目を細める 右の手のひらが、あたたかく感じる (風香の手か) そう思った時、 「パパ」 と妻の声が聞こえ、泣いている妻の顔が見えた 「パパ」 と風香は、泣きながら俺のことを呼び、握っていた手に風香の力を感じる 「ただいま」 酸素マスクをしているので聞こえないと思ったが、 「おかえりなさい」 と妻が言い、 「パパ、おかえり」 と風香が、笑顔で言った (まずは何をやろうかな) 明るい天井を見ながら、自分でやりたいことを頭の中に浮かべていった
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