15人が本棚に入れています
本棚に追加
「ど、どうして、泣くんですか」
「だって、とってもかなしいお話なんだもの」
くすん、と鼻をすすりあげて、ぷりんはごしごしと手の甲でなみだを拭う。ぽぷりはすっかりおろおろしてしまって、あわててポケットからハンカチを取り出した。
「も、もう、なにも泣くことないじゃないですか。ええと、そんな乱暴に拭いたら目が 赤くなっちゃいますから……ほら、ハンカチ……」
やさしく目元を拭ってあげると、ぷりんはおとなしくされるがままで、すんと赤い鼻をすすった。
「だ、だから、ほらね、きみの好きなような話じゃないんですってば」
なだめて言うと、ぷりんはこくりとうなずいた。
「そうね、とってもかなしいお話だわ」
つぶやくように言って、けれどぷりんは顔をあげた。ぽぷりをまっすぐに見あげる。
ぽぷりはぎくりとして、ハンカチをポケットにしまうふりをして目をそらした。ぷりんはまっすぐ見上げたまま、なみだっぽい声で続ける。
「でもね……ぽぷりくん、トマトだってすてきなのよ。朝つゆに濡れるときらきら光って、ほんとうに宝石や黄金みたいなの。わたし、毎朝大きくなるちいさな宝石みたいなトマトが、とっても好きよ」
あまく透き通る、やさしい声で言う。ぽぷりは照れくさいようないじけた気持ちになって、ふんと鼻を鳴らした。
「そうでしょうねえ。朝ごはんのスープを火にかけたまま、わくわくして水やりに出て、 そのままスープをわすれて危うく火事になりそうになるくらいですから」
「も、もう。やあねえ、ぽぷりくんは忘れていいことばかりおぼえてるんだから」
鼻だけでなくほっぺたまで赤くして、ぷりんはぽぷりの腕のあたりをばしばしと叩い た。でも、ふとなみだに濡れたみたいにやさしい目になって、つぶやく。
最初のコメントを投稿しよう!