おいしいの魔女と宝石のトマト

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「ど、どうして、泣くんですか」 「だって、とってもかなしいお話なんだもの」  くすん、と鼻をすすりあげて、ぷりんはごしごしと手の甲でなみだを拭う。ぽぷりはすっかりおろおろしてしまって、あわててポケットからハンカチを取り出した。 「も、もう、なにも泣くことないじゃないですか。ええと、そんな乱暴に拭いたら目が 赤くなっちゃいますから……ほら、ハンカチ……」  やさしく目元を拭ってあげると、ぷりんはおとなしくされるがままで、すんと赤い鼻をすすった。 「だ、だから、ほらね、きみの好きなような話じゃないんですってば」  なだめて言うと、ぷりんはこくりとうなずいた。 「そうね、とってもかなしいお話だわ」  つぶやくように言って、けれどぷりんは顔をあげた。ぽぷりをまっすぐに見あげる。  ぽぷりはぎくりとして、ハンカチをポケットにしまうふりをして目をそらした。ぷりんはまっすぐ見上げたまま、なみだっぽい声で続ける。 「でもね……ぽぷりくん、トマトだってすてきなのよ。朝つゆに濡れるときらきら光って、ほんとうに宝石や黄金みたいなの。わたし、毎朝大きくなるちいさな宝石みたいなトマトが、とっても好きよ」  あまく透き通る、やさしい声で言う。ぽぷりは照れくさいようないじけた気持ちになって、ふんと鼻を鳴らした。 「そうでしょうねえ。朝ごはんのスープを火にかけたまま、わくわくして水やりに出て、 そのままスープをわすれて危うく火事になりそうになるくらいですから」 「も、もう。やあねえ、ぽぷりくんは忘れていいことばかりおぼえてるんだから」  鼻だけでなくほっぺたまで赤くして、ぷりんはぽぷりの腕のあたりをばしばしと叩い た。でも、ふとなみだに濡れたみたいにやさしい目になって、つぶやく。
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