おいしいの魔女と宝石のトマト

6/6
前へ
/29ページ
次へ
「だからね、わたし、たとえどんなに歳をとっても、おおきくなっておとなになって、 おばあちゃまになっても、トマトが黄金でも宝石でもなくてもうれしいままでいたいわ」 「……そうですか」  ぽぷりはそっと、赤く実ったトマトをつまんでみる。ぽぷりには、トマトはトマトにしか思えなかった。  赤くて酸っぱくて、ぷちっとはじけて、青みのあるかおりが鼻に抜ける。あんまりトマト、好きじゃないんだよなあ、と、ちょっぴりにがわらいがこぼれた。  ……でも。どんな高価な宝石よりも、ぷりんのやわらかな、白くてつめの先のほんのり赤い指に摘まれて、エプロンいっぱいに抱えられたトマトは、しあわせの象徴みたいで、すてきだと思った。 「ぷりんさんなら、だいじょうぶですよ」 「そうかしら……」 不安そうに、ぷりんは小首をかしげる。ぽぷりはふふんとわらった。 「それにぷりんさんなら、はらはらするサーカスなんかより、プチトマトのお鍋でお夕飯するほうがしあわせだわ、ってぷりぷり怒って帰っちゃうでしょ」  とたんにぷりんはまた顔を赤くして、ぽぷりの腕をぽかぽかなぐる。 「も、もう。ぽぷりくんはいじわるだわ。とってもいじわるだわ」  なぐるのをようやくやめたかと思えば、今度は恥ずかしそうに、ほっぺたをふんわりした手でおおった。ぽぷりは肩をすくめる。 「はいはい。いじわるでかわいげがなくてすみませんねえ」  かわいげのない言葉を吐きつつも、ぽぷりは肩にかけた日傘をぷりんに差しかけ直して、眉をさげてわらった。 「じゃ、収穫しましょうか。ぷりんさんのとっておきの宝石を」  ふくれっ面の、しあわせの妖精みたいにかわいらしいぷりんの顔がほころんだ。ぱあっと笑って、トマトを受けとめるためにエプロンを広げる。ぽぷりもちょっぴりわらう。彼女の笑顔。朝陽にエプ ロンを透かしてわらう顔。それは、どんな宝石よりも、すてきだと思った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加