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「だからね、わたし、たとえどんなに歳をとっても、おおきくなっておとなになって、 おばあちゃまになっても、トマトが黄金でも宝石でもなくてもうれしいままでいたいわ」
「……そうですか」
ぽぷりはそっと、赤く実ったトマトをつまんでみる。ぽぷりには、トマトはトマトにしか思えなかった。
赤くて酸っぱくて、ぷちっとはじけて、青みのあるかおりが鼻に抜ける。あんまりトマト、好きじゃないんだよなあ、と、ちょっぴりにがわらいがこぼれた。
……でも。どんな高価な宝石よりも、ぷりんのやわらかな、白くてつめの先のほんのり赤い指に摘まれて、エプロンいっぱいに抱えられたトマトは、しあわせの象徴みたいで、すてきだと思った。
「ぷりんさんなら、だいじょうぶですよ」
「そうかしら……」
不安そうに、ぷりんは小首をかしげる。ぽぷりはふふんとわらった。
「それにぷりんさんなら、はらはらするサーカスなんかより、プチトマトのお鍋でお夕飯するほうがしあわせだわ、ってぷりぷり怒って帰っちゃうでしょ」
とたんにぷりんはまた顔を赤くして、ぽぷりの腕をぽかぽかなぐる。
「も、もう。ぽぷりくんはいじわるだわ。とってもいじわるだわ」
なぐるのをようやくやめたかと思えば、今度は恥ずかしそうに、ほっぺたをふんわりした手でおおった。ぽぷりは肩をすくめる。
「はいはい。いじわるでかわいげがなくてすみませんねえ」
かわいげのない言葉を吐きつつも、ぽぷりは肩にかけた日傘をぷりんに差しかけ直して、眉をさげてわらった。
「じゃ、収穫しましょうか。ぷりんさんのとっておきの宝石を」
ふくれっ面の、しあわせの妖精みたいにかわいらしいぷりんの顔がほころんだ。ぱあっと笑って、トマトを受けとめるためにエプロンを広げる。ぽぷりもちょっぴりわらう。彼女の笑顔。朝陽にエプ ロンを透かしてわらう顔。それは、どんな宝石よりも、すてきだと思った。
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