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二 裁判
「被告人、リリーよ。そなたは病気の弟がいるので金がないと酒場で嘘をつき、男達から金を巻き上げたことに間違いないか」
「いいえ! 裁判長。私はお金を下さいとは言ったことはありません」
リリーは訴える。その様子をラルトは裁判長よりも高い場所の席で見ていた。セリナは傍聴席の端で手に汗を握りながら見ていた。派手な酒場の女として噂されていたリリーは、化粧を落とした顔は地味であり痩せた貧相な女である。
「私は確かに現場で金に困っているとは言いましたが、催促したことはありません。それにです。そんなに言うのならその証拠を出してください」
「では被害者をここに」
すると中年の男性が現れた。リリーはビクとしたが、男は告げた。
「裁判長、私はその女と結婚する約束しました。そのため彼女が金に困っていると聞き、全財産を捧げたんです」
「結婚の約束の証拠は? 証文を交わしまたか?」
「いいえ……」
男性の話では、リリーは指を怪我していると言い、サインをしていないと男は語った。他の被害者の男達も同様であった。さらに酒場にいた人たちもリリーが金をくれと言った言葉は聞いていないと証言した。
「では、リリーよ。お前は複数の男と結婚する約束をしていたのはどういうことだ」
リリーは金と同様、そんなつもりではなかったと話す。
「解釈違いです。それに、私は独身だし、結婚していないならいいじゃない」
「金はどうしたのだ。結婚しないなら返しなさい」
「そ、それは、弟に使ったのよ」
弟は金を使って薬を飲ませたが、死んでしまったとリリーは言う。実際、そういう名前の男が隣町にいたため、裁判長も追及が弱くなった。ここで裁判は一旦、休憩になった。ラルトは休憩室で裁判長と相談していた。
「王子、どうしましょうか。このままですと証拠不十分になります」
「被害者の男達はなんと申しておるのだ」
「結婚はいいので、金を返して欲しいと言っております」
「しかし……金は無いしな……」
リリーをこのまま風紀を乱した罪で牢獄に入れることも可能であるが、それでは刑が軽く数年で牢から出てくることになる。悩むラルトは腕を組んで目を伏せていたが、そばにいた係に、お茶を淹れさせる理由でセリナを呼びに行かせた。
ラルトは一人、特別室で待っているとセリナがお茶を持ってきた。
「王子! リリーさんって、意外と歳でしたね」
ワクワクしているセリナをラルトは一応、嗜めた。
「それはいいから、お前もここに座れ……で、今の裁判、どう思った?」
「どうって」
「このままだと、証拠ははっきりしないから、軽い罪になるんだ」
ラルトの話を聞き椅子に座ったセリナは、目をぱちくりさせた。
「それは被害者の人が可哀想ですね……」
「そうなんだ。金を返してやりたいのでな」
……私にそこまで話をしていいのかな。
とは思ったが、ラルトは王族なのでセリナは好奇心を優先した。
「リリーさんの話、何かこう引っ掛かるんですね……なんだろう。ここまできているのに」
「別にあの女がうるさいだけで、不自然な点がないと思ったが」
「……不自然」
セリナはラルトの顔をじっと見た。
……綺麗な顔立ち……王子は厄介だけど、お顔は顔面国宝なのよね………
そんなことを考えていたセリナは、思い出した。
「あ!」
「ど、どうした」
「そうだわ、きっとそうよ」
セリナの話を聞いたラルトは、判決を次回に延期した。
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