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一 片田舎
夏、王都から離れた片田舎。国境の守護をしている男爵家の娘セリナは、今日も畑で野菜を収穫していた。
……うわ、こんなに大きなトマト……よいしょ!
見事に育ったトマトを採ったセリナは額の汗を拭った。青空の下、清々しい風を浴びたセリナが屋敷に入ると、父と兄の話す大きな声が聞こえてきた。
「と、言うことだ」
「よほど気に入ったのですね……ん。セリナ」
「どうされたのですか」
部屋に入ってきたセリナを見た父と兄は、優しく微笑んだ。
「セリナ。アン様がお越しになるそうだ」
「今、手紙が来たんだよ」
「まあ、本当ですか! 嬉しい」
……また会えるのね。
アン様は第四王女である。幼い頃から病弱で知られており、風邪をずっと引いているような病状であった。王宮でも最高の医師を付けてアン王女を治そうとしたが、体力が落ちてしまい余命宣告をされていた。そんなアン王女は最期くらい緑豊かなところで終えたいといい、去年の秋、この男爵家でお迎えをしたのだった。
「お兄様、アン様のお手紙では、『忙しい』と書いてありましたが、時間が取れたんですね」
「ああ。急に決まったみたいだね」
兄はそう言って優しくセリナの顔についていた泥をそっと拭う。父は手紙を机にしまった。
「ではお迎えの支度をせねば、と言っても、あの時とは違うか?」
「そうでしたね。あの時は本当にダメだと思いましたね」
やってきた当時。家臣に大切に運ばれてきたアンは顔色が真っ青で、誰もが助からないと思っていた。事情を聞いていた彼らは、アンのために静かな部屋を整えていた。彼女が安らかにこの世を去れるように病床から花が見えるようにし、心穏やかに過ごせるようにお迎えをしていた。
そして祈りを捧げているだけの日々。この屋敷に来て部屋で寝ているだけでアンは呼吸が楽になり、受け付けなかった食事も取れるようになっていった。食事も美味しいというアンは、やがて元気になりセリナと野菜を収穫したり、兄と馬に乗ったり健康になってしまった。年齢が近い彼らはあまりに仲良くし過ぎたためアンが帰る時は、全員で大泣きしたほどである。
……あの時は王都で勉強をしないといけないって言っていたものね。
それが済んだらまた来たいとアンが抱きしめてくれたことをセリナは思い出していた。
「さて、それでも用意をしないとならんぞ。バロン、セリナ、頼んだぞ」
父の言葉に二人は笑顔で返事をした。
……ああ、楽しみだわ! 一緒にやりたいことがいっぱい。
セリナはアンに会えるのを楽しみにしていた。
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