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「初めまして。こんにちは」  監視という名目でやってきた騎士さまに向かって、黙って頭を下げた。どのような経緯でここに来ているのだとしても、不本意な務めであるに違いない。うっかり相手を怒らせて、ぶたれたり、殴られたりしてはたまらない。けれど、私の予想は良い方向に裏切られた。 「これは……ひどい。今までずっと痛かっただろう? どうしてこんなになるまで。神殿は一体何を考えているんだ」 「っ!」  不意に騎士さまの大きな手が私の首に触れてくる。声にならない悲鳴とともに勢いよく飛びのいた。重たい金属でできた魔道具は、肌に食い込み、ずっと血がにじんでいたのだけれど、騎士さまはそのことを一目で見抜いたらしい。  首を絞め殺すかのようにきつい金属の首輪は、声封じの魔道具だ。「特別製だ」と神官さまたちは、嫌な笑みを浮かべていた。それを何重にも私はつけられている。  柔らかい肌に剥き出しの金属をつけていれば、擦れて炎症を起こすことくらい神官さまたちは知っていたはずだ。それでも決して改善されなかったのは、たぶん意図的だったから。「災厄」を封じつつ、罰することができるなんて一石二鳥だとでも考えたのだろうか。  どんなに嫌なことをされても、声が出せなければ誰かに訴えることなどできない。文字を知らなければ神殿外に助けを求めることもできない。そもそも味方のいないもの知らずの平民にできることはただじっと我慢することだけ。 「君が口を開けば、世界が滅ぶだなんて。神託が本当かどうかも怪しいのに、こんな小さい子どもになんて酷なことを」  告げられた言葉に目を丸くする。神官さまたちが耳にしたら激昂してしまいそうな不遜な内容だった。  私を手元に引き取ったあの方はあくまでわたしを普通の子どもとして扱った。他のひとにしてみればごくごく普通の、けれど私にとっては初めての温かいやりとり。騎士さまに惹かれていくのは、当然のことだったのかもしれない。  失うとわかっていたなら、始めから愛など求めなかったのに。
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