1.転生

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1.転生

「今日も疲れたなあ」  クラスの人たちはそれぞれグループを作ってワイワイと楽しそうにしゃべっている。  私は一人、広い教室を出てため息をついた。 「さてと」  私はイヤホンをつけ、お気に入りのゲーム『ユニコーンの乙女』のドラマCDを聞き始めた。 「パールたんの声マジ天使。脳がとろける……」  主人公のパール・アドラムは、つぶらな瞳に日に透けるブロンドヘア、宝石のような青い瞳が童話のお姫様みたいだし、すこし舌足らずな話し方はグッとくる。 「はあ……パールたん……」  目を閉じてパールたんの声を堪能していた。一歩進むと、足元に床がない。 「え!? あ……!?」  階段を踏み外したことに気づいたが、もう何もできない。  私はスローモーションで流れていく景色の中、もう一度目をつむった。 「……さようなら。世界」  最後に聞いたのがパールたんの声で良かった、と思いながら体がバラバラになるような衝撃を感じ、意識を失った。 *** 「う……? あれ? 私……生きてる?」  目を開くと見知らぬ天井……いや、天蓋が見えた。ふかふかのベッドに寝かされている。 「天蓋付きベッドなんて……最近の病院はすごいのね……」  ぼんやりとした頭で、周囲を観察する。病院にしては、様子がおかしい。 「……よいしょ」  私は重い体を両腕で支えて、上半身を起こしてみた。 「病院じゃない……?」  ベッドの周りを囲むカーテンの隙間から見えたのは、立派な飾り棚や、綺麗な彫刻で飾られた机。もう少し部屋の中を観察するためにベッドから降りようとしているとドアが開いた。 「リーズ様! 目を覚まされたのですね! ……良かった」 「え?」  リーズ? どこかで聞いたことがある名前だけれど……。 「私は……」 「お水をもってきますね。まだ起き上がってはいけませんよ、リーズ様」  ドアを閉める音。遠ざかる足音。  私はゆっくりベッドから降りて部屋の中を見回した。 「すごい……豪華な部屋……。一体ここはどこなの?」  ベッドからは見えなかったが、鏡台もあった。私はそれを覗き込んで言葉を失った。 「……! リーズ・フェルミ―!?」  鏡の中にいたのは『ユニコーンの乙女』でパールを追い詰める悪役令嬢リーズ・フェルミ―だった。 「え? ちょっとまって? いったいどういうこと?」  私はベッドに戻り、頭を抱えた。 「夢? 私は夢を見ているの?」  頬をつねってみた。痛い。こんな古典的な方法で確かめるなんて、と我ながらあきれた。  どうやら私は『ユニコーンの乙女』の世界に転生してしまったらしい。  しかも、最愛のパールたんを苦しめるライバルとして。 「やだあ……。パールたん……」  私はベッドの中でうめいた。 「リーズ様、お水をお持ちしました。リンゴジュースもございます」 「ありがとう。えっと……」 「アンナです。リーズ様、お飲み物はこちらに置いておきますね」  アンナはベッドテーブルに飲み物を置くと、心配そうに私の顔をじっと見た。 「リーズ様が私にお礼を言うなんて……やっぱり重症のようですね」  悲しそうな顔で私を見るアンナに、なんと答えようかと迷っていると、アンナは首を振って微笑んだ。 「リーズ様、三日も高熱で意識を失っていたのですから、無理はなさらないでくださいね」  その時私のお腹がぐぅと鳴った。 「まあ! すぐにスープをお持ちいたします。お待ちください」  アンナはまた部屋を出て行った。  私はサイドテーブルに置かれたリンゴジュースを飲んでため息をついた。 「……私、これからどうすればいいのかしら……」
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