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十月末、ハイドの代理人だという男がシモンズとの面会にやって来た。ラウンド型の眼鏡を掛けた、線の細い中年男で、神経質そうだった。生まれつきなのか、それともこれまでの暮らしのせいか、どことなく寂しげな表情をしている。
代理人はハイドの言葉を、直接シモンズに伝えた。印字した紙を持ってきたのだ。代理人は薄く漉かれた青い便箋を拡げると、つっかえることなく読んだ。
「シモンズ君
わたしのために君が傷害事件を起こしたことを聞きました。それほどまでに篤い忠誠を感じてくれているようで、うれしく思います。
わたしも弁護士とよく話し合っていますし、君が苦しむことなく、早々に出てくることも可能でしょう。待っていてください。そしてわたしのために働いてください。
シドニー・C・ハイド」
この手紙を代理人のそばで聞いていたウィルクスは、ハイドの魔力を実感した。黙って伝言を聞いていたシモンズの目に、みるみるうちに涙が溢れてきたのだ。
止めないと、とウィルクスは思った。止めないと、後戻りできなくなる。シモンズは破滅だ。
そこで、接見室から出た代理人を捕まえ、詰め寄った。扉の外には代理人を護るためにSPの姿があったが、そんなものは無視だ。
ウィルクスは焦燥と動悸で苦しくなりながら、代理人めがけてこう言った。
「ミスター・ハイドに会わせていただけませんか? シモンズのことで、話がしたいのです」
これはSCO7(重大・組織犯罪対策指令部)を無視した越権行為かもしれない。いや、確実に越権行為だ。だが、自分で自分が止められなかった。ウィルクスは自分が冷静でいると思っていたが、しかしやはり百パーセント冷静ではなかった。友人の未来がかかっているからだ。
そして、冷静な部分も、ちゃんとあった。ウィルクスは上司にことの次第を報告し、拳銃を携行させてもらうつもりでいた。
代理人は、落ち着いた口調で応じた。
「ミスター・ハイドに伺ってみます。お時間をください」
代理人はそれだけ言うと、SPと共に夕暮れのヤードを去って行った。
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