俺はかつての大泥棒

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俺はかつての大泥棒

 他人(ひと)のもんを勝手にとって懐に入れたら、そいつぁ泥棒だ。許された行為じゃねぇ。  だがこの町にはかつて、それが許される夜があった。  泥棒になっていいのは、せいぜい中学生まで。  十五夜お月さんの眩しさで、大人の目も眩む秋の夜に、お供え(もん)を盗って歩く。  お月見泥棒――という風習だ。  俺も昔は、ビニール袋片手にご近所を練り歩いたもんよ。母ちゃんが安売りで買い込んだ時の特大レジ袋を大事に取っておいて、サンタの袋みたいに膨らませて夜道を駆け回った。  やれ、坂の上の田村なにがしさん家には、なスナック菓子があるぞ。いやいや、山下のキヨさん家には手作りの大福があるぞ――などと、泥棒仲間と情報交換をしながら、本当はみんな誰よりも多く、良いものを盗ることに夢中だった。  ずっしり重くなった戦利品を広げて、互いに自慢し合いながら、いつもより夜更かしして過ごしたもんだ。
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