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3
扉の向こうには、古びた廊下が広がっていた。
ひびが走る壁や埃に覆われた床は、歩みを進めるラドの胸に、妙な既視感を募らせる。
一方、至る所に刻まれた模様や散らばる物体を見つめるリックの目は、慎重ながらも、この廃墟の異様な魅力に吸い寄せられていた。
「文明が滅びて百年……いや、数百年くらい経ってそうだな。うーん……エネルギー残滓にも見えるけど……ああ、艇長、この廃墟、なんだか普通じゃないです。気を付けてください」
リックは独り言のように呟きつつ、先を行くラドとの距離を少しずつ詰めていく。しかし、ラドの足取りが異様に速いことに気づいた。普段冷静な彼が、今は何かに急かされているようだ。
「……艇長、聞こえてますか?」
その異変にリックは焦りを感じて声をかけるも、ラドは振り返らず、「聞こえている」とだけ低く答え、足を止めることはない。進み続ける彼にリックは軽くため息をつき、後を追いかけた。
そして、廃墟の圧倒的な静寂の中、二人はやがて開けた空間へと辿り着いた。
奥には微かに光を放つ何かが見え、ラドはその光に引き寄せられるように、一直線に歩み寄る。
光は装置から放たれているようだが、その正体はわからなかった。
リックもラドの横に立ち、淡い光と制御パネル、石造りの装置を見つめる。
「これ、何ですかね……まだ動いてるみたいですけど」
ラドはしばらく光を見つめたまま立っていたが、リックがそろそろ別の物に視線を移しかけた時、静かに呟く。
「……ここを知っている気がする」
思わず勢いよくラドを見たリックは、驚きに目を瞬いた。
「知っている? でも、こんな辺境惑星、早々来ないんじゃ……」
頭の中で今までの探査を思い出しながら言葉を紡ぐリックの隣で、ラドの視線がある場所に向かう。
視線の先、部屋の片隅には、埃をかぶり錆びついた時計が静かに佇んでいた。
「……あの時計」
ラドはゆっくりと歩み寄り、時計を見つめる。針は止まっているものの、不思議と損傷はない時計とその文字盤に、ラドは目を奪われた。
「艇長、その時計に何か……?」
リックが不安げに声をかけるが、ラドは応えず、指先でそっとガラス面を撫でる。眉をひそめて時計をじっと見つめるラドの胸は、意識が引き込まれるような感覚にざわめいていた。
そんな彼に肩を竦めながらも、後ろで控えるリックは再び目を光る装置へと向ける。
そのとき。
突然、光が強まり、部屋全体が眩しい輝きに包まれた。
淡い輝きが空間全体に広がり、遺跡の石壁や朽ちた装置が一瞬で輝きを取り戻したかのように見え、リックは慌てて周囲を見渡した。
「なんだ、今の?」
しかし、疑問の答えを考える間もなく視界は白に染まり、廃墟の全てが、光に飲み込まれていく。
「艇長!」
リックの声を聞きながら、光に引き込まれるように、ラドの意識は遠のいていった。
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