赤ちゃんの靴

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 帰宅途中、道路に小さな靴が落ちているのを見かけた。  サイズ的にどう見ても赤ちゃんの靴。  昨年姉が姪を産んだのだけれど、赤ちゃんて、あれこれ身をよじったりしているうちに、履かせている靴や靴下を知らないうちに脱いでしまんだって。  多分この靴もそうやって脱げたのだろう。  片方だけが靴がなくなったら、親は困っちゃうよね。  そんなことを考えていたら、前方にベビーカーを引いた女性がいるのが見えた。  何やら道路を見ながらきょろきょろしている。その姿にピンときて、私は靴を拾ってその女性の元へ向かった。 「あの、これ、お子さんの靴じゃないですか?」  そう問いながら靴を見せると、女性は『そうです』と頷き、私の手から靴を受け取った。なのにその視線は、すぐに道へと落とされた。  まだ何か落とした物があるのだろうか。だったらそれが何かを聞き、探すのを手伝おう。  そう思った瞬間、女性が顔を上げ、私の方を見た。 「あの…落ちてたのは靴だけですか?」  ああやっぱり、他にも落し物があるんだ。そう思ったのも束の間。 「この子の足、一緒に落ちてませんでしたか?」  言いながら、女性がベビーカーを私の方へ向ける。そこに寝かされていた赤ちゃんの足は…。  私が悲鳴を上げたのと、目の前から女性とベビーカー、赤ちゃんが消えたのは同時だった。  後で聞いた話だけれど、数か月間この付近で交通事故があり、ベビーカーに乗った赤ちゃんと母親が亡くなったそうだ。  さすがに、赤ちゃんの状態までは誰も知らないようだったけれど、多分その遺体の両足はなくなっていたのだろう。  死んでなお、我が子の両足を探し続ける…あの時は怖かったけれど、この話を聞いた今は、どんな形でもいいから赤ちゃんに両足が戻り、親子共々浮かばれてほしいという気持ちでいっぱいだ。 赤ちゃんの靴…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加