三.あの夏の日

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 そんな楽しい食事会が終盤にさしかかった時のことだった。 暑い、暑いというワードを繰り返し使う大人にうんざりしたのか、 薫が口を開く。 「ねぇ、きょうすけおじちゃん、夏と冬はどっちが好き?」 とっさに大人たちの目が点になる。 「えー、薫ちゃんそれは、難しい質問だな。」 「かおるはね、えーと、えーとね。」 きょろきょろと周囲を見渡す薫。 その姿に、夫妻も自然と微笑んだ。 何かを見つけた、薫は目を見開く。 「かおるはね、夏が好き! だって、あそこに入れば夏も暑くないもん!」 そう言って指さした先には、冷蔵庫。 そのセリフに夫婦はお腹を抱えて笑っていた。 いつまでも、いつまでもリビングには幸せが溢れている。 その様子を恭介はじっと見つめていた。  それから一年後、自らがそこに入るとはまさか、 この少女も思ってもいなかっただろうに……。
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