四.帰る場所

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   刹那、その沈黙を打ち破るかのように、 玄関のドアが激しく蹴破れた。 「弘樹!」 怒りに震えた形相。 刃渡り十センチともあろう包丁を片手に、 沙知絵が飛び込んで来た。 「沙、沙知絵……、どうしてここへ?」 「何言ってんのよ弘樹!離れて!早く恭介から離れて!」 震える手で刃物を振り回しながら、沙知絵は恭介を威嚇する。 「おいおい、沙知絵、いつも冷静なお前らしくないぞ。」 一瞬驚いた様子を見せた恭介だったが、すぐに何事もなかったかのように 話始める。 「サチ、お前もいい加減にヒロの言う事を信じてやれよ。  やっぱりそこに、かおるちゃんがいたよ。」 恭介が面倒くさそうに、ほらと言って指さした先。 まさかと その先にある開け放たれた冷蔵庫の扉に恐る恐る沙知絵が近づく。 のぞき込んだその瞬間。 激しい悲鳴がとどろく_____ かと思いきや、人は本当に 衝撃を受けた時、声がでなくなることが、 沙知絵の状態を見て分かった。 「あ……、あっ……。薫。こんな寒いところにいたんだね。」 沙知絵の溢れでる涙が、かび臭い部屋の湿度をあげる。 「うっ……、一人でずっとお留守番してたんだね。冷蔵庫の中で。 でも隣にはお魚さんもいるから寂しくはなかったかな?」 無言の娘は何も語らない。 庫内灯に照らされ浮かび上がった薫の青白い顔。 娘は今、沙知絵の目と鼻の先に帰ってきた。 「ただいま、薫。ママ、今帰ったよ。」
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