四.帰る場所

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 夜のとばりが部屋を覆う。 沙知絵の青白くそげた頬は、暗闇の中でも 冷たく小刻みに震えているのが分かる。 「みんな、みんな__。愛する誰かの帰りをまっているのよ。 だから、みんな元気よく、ただいまって言って帰るのよ!」 そう言った瞬時、沙知絵は阿修羅のような形相で 振り向きざまに、手にした刃物で恭介に襲いかかった。 鈍い音。 肉と骨がきしよせあう音。 その刃先には、 恭介の体をかばうように、 立ちはだかった弘樹のTシャツ が赤く染まっていた。 「なんで!なんで弘樹!こんなやつのこと庇うの?」 崩れおちる弘樹を、必死に受け止めるのは恭介。 「……、わ、わるい、沙知……。 俺、……、実はずっと恭介のこと……。」 弘樹を抱きかかえた、恭介の口元がみるみると緩んでいく。 流れ出した血は点々と床に染み渡っていた。 「あっーヒロ、やっと帰ってきてくれたんだね。」 「……、あー。き、きょう、すけ……。た、だ、いま___。」 何事もなかったかのように会話が繰り広げられる。 恐怖におののいた沙知絵の眼球が縦横無尽に動き回る。 沙知絵の狂った声が響き渡ろうが、お構いなしに、血みどろの 二人はずっと抱きしめあっている。 開け放たれた冷蔵庫の扉。 その中から聞こえるのはコンプレッサーの機械音だけ。 そして、真っ赤な血を浴びた、幸薄い色白の冷蔵庫は 今、派手なデザインに様変わりして、 ただ一人静かにそこに立っていた。 「ただいま恭介。」 「おかえり弘樹___。」
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