二.事件

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 弘樹と恭介は、同じ会社に勤める同僚。 いや、同僚というだけではなく、学生時代からの無二の親友だった。 小学校から同じ学校に通い、 中学、高校も同じ学び()で過ごした。 高校卒業後、二人で夢をかなえようと一念発起して上京。 そんな二人の将来の夢は『日本一の漫才師』 上京して二人で転がり込んだ、何もない六畳一間のおんぼろアパート。 そこで、日夜、明日を信じて夢を追いかけた。 楽しかった。 貧しかったけど、楽しかった。 二人で夢を追いかけた日々が。 同じ時間にバイトにでかけ、同じ時間に帰ってくるよう二人で約束した。 それはすべて、漫才の練習時間を割くために、 そして二人のすれ違いの時間をなくすためだった。 そんな日々が、二年、三年と経つにつれ、 だんだんと芽がでないことに、互いに気づき始める。 二人とも口には出せなかったが、『あきらめる』 という文字が互いの脳裏をかすめていた。 そして、一番の引き金になったのは、ある日の弘樹の一言だった。 「恭介、俺、結婚するわ。  地道に、嫁さんと娘を食わせていくためにも、  だから、そろそろ俺たち……。」 誰よりも夢をかなえたかった弘樹にその言葉を言わせてしまった。 その気持ちを恭介は受け止め、 「分かった、解散しよう。」 そこで、恭介と弘樹の、二人の生活が終焉した。 ただ、おかしいのは、同じ同郷のよしみ。 帰ってくる故郷も結局一緒。 「なんだよ、結局、俺たちずっと一緒だな。」 恭介が高笑いしている姿を、いつまでも弘樹は 嬉しそうに見ていた。 堅実な道を歩もう。 二人で話し合い、 次に一緒に同じ会社の門を叩いたのは、 地元の冷蔵庫の製造メーカーだった。
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