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「恭介、ねぇ恭介、聞いてる?」
注文したコーヒーのミルクが波紋になって広がる。
それを眺めながら昔の事を思い返していた恭介は
沙知絵の一言で我に返った。
「あっ、サチごめん。
そうそう、何とか上司達には俺がうまく言っているから。
ただなぁ……、そろそろ、会社も限界にきているかもな。」
そう言われた事に納得した沙知絵の
嗚咽が店内に静かにこだまする。
「あの日以来、私もどんな風に生きてきたかはよく覚えていないの。
ただ、薫がいた日々はけっして、けっし…て。」
大粒の真珠のような涙。
とめどなく流れて、テーブルに水たまりをつくる。
ここ半年、弘樹の奇怪な行動が職場内で目につくようになった。
最初は、そんな弘樹を同僚も会社も同情の念で見ていたのだが。
_____一年前、弘樹の娘、薫が何者かに殺された。
それも、死体はバラバラにされ、ある場所から見つかった。
____冷蔵庫。
町のいたるところに廃棄された複数の冷蔵庫の中に、
分けて捨てられていたのだ。
そのセンセーショナルな事件は、小さな町を震撼させる。
ただ、もっと恐ろしい事はそんな惨い事件から一年たっても、
まだ、見つかっていないのだ。
犯人はもちろん、
薫の頭部だけが___。
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