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そんな残酷な事件から半年たった頃、
何とか職場復帰した弘樹。
ただ、その異質な行動が周囲の気持ちを減退させていた。
「娘を、薫ちゃんを探しているんです!
どうか、どうか、もう少し温かい目でみてやってください!」
地べたがすり減るほど、恭介が上司に土下座をした数は数え切れないほど。
その度になんとも言えない憐れみと困惑している上司の顔が
伏している恭介にも痛いほどわかった。
「おい、佐野。顔をあげろ。
友人であるお前の気持ちはよく分かるが、いつまでも
うちは面倒見れんぞ。
ボランティア活動で企業は成り立っているわけではないんだ。
___あれを見ろよ。少し、休ませた方があいつのためだぞ。」
上司はあきれたと言わんばかりに、
製造工場内で狂ったように冷蔵庫の扉を開けている
弘樹を横目で見た。
広い工場内に無数に並んだ白い家電製品の列。
自社で製造している、あれらの冷蔵庫は
今しがた、最終チェックも終わり、これから
色々な家庭に運び込まれ、
それぞれの人生を全うする。
その冷蔵庫の扉をかたっぱしから開閉している男。
何だかおかしいと首をかしげている様子も伺える。
「ただいま、薫。おーい、そこにはいないのか?」
周囲にいる職員は明らかに引いている。
中には、何とか声をかけようにも、
どうしていいか迷っている同僚もいる。
____あの事件以来。
弘樹は何かに引き寄せられるように、娘を探した。
いや、娘の頭部を。
探す場所はただ一つ。
冷蔵庫の中。
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