二.事件

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   そんな残酷な事件から半年たった頃、 何とか職場復帰した弘樹。 ただ、その異質な行動が周囲の気持ちを減退させていた。 「娘を、薫ちゃんを探しているんです! どうか、どうか、もう少し温かい目でみてやってください!」 地べたがすり減るほど、恭介が上司に土下座をした数は数え切れないほど。 その度になんとも言えない憐れみと困惑している上司の顔が 伏している恭介にも痛いほどわかった。 「おい、佐野。顔をあげろ。 友人であるお前の気持ちはよく分かるが、いつまでも うちは面倒見れんぞ。 ボランティア活動で企業は成り立っているわけではないんだ。 ___あれを見ろよ。少し、休ませた方があいつのためだぞ。」 上司はあきれたと言わんばかりに、 製造工場内で狂ったように冷蔵庫の扉を開けている 弘樹を横目で見た。 広い工場内に無数に並んだ白い家電製品の列。 自社で製造している、あれらの冷蔵庫は 今しがた、最終チェックも終わり、これから 色々な家庭に運び込まれ、 それぞれの人生を全うする。 その冷蔵庫の扉をかたっぱしから開閉している男。 何だかおかしいと首をかしげている様子も伺える。 「ただいま、薫。おーい、そこにはいないのか?」 周囲にいる職員は明らかに引いている。 中には、何とか声をかけようにも、 どうしていいか迷っている同僚もいる。 ____あの事件以来。 弘樹は何かに引き寄せられるように、娘を探した。 いや、娘の頭部を。 探す場所はただ一つ。 冷蔵庫の中。
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