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三.あの夏の日
「少し、仕事は休むよう、俺からヒロに言ってみるよ。
有休もまじめなあいつのことだから、まだ残っていると思うから。」
いつの間にか、時間も経ち店内の席もまばらになってきていた。
ふっと、疲れた微笑を浮かべた沙知絵。
喫茶店の窓の外を遠い目で見つめた。
あの事件から、時が止まっている。
そして、同じ日々の繰り返し。
今日も、旦那は帰ってくるとすぐに冷蔵庫の扉を開けるのだ。
そして、玄関の扉をあけたように、あの文句を言うのだ。
「ただいま薫。パパ、今帰ってきたよ、か……。」
自分が大切にしていた者を、瞬時に奪われる気持ち。
それは、目の前にいる恭介も痛いほど分かっているつもりだった。
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