第3話 90年代の打ち上げなんてこんなものですがな

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 F・W・Aは四人編成である。ギターが一本の、よくある形。ヴォーカル・ギター・ベースにドラム。鍵盤は入れない。  オリジナルメンバーと言えるのは、FAVとイキの二人だけで、ヴォーカルとベースは何度か交代をしている。高校時代の軽音からだからもう結構な年数になっている。  女の子をヴォーカルにしたこともあるし、当初のベースは初心者だった。  正確に言えば学校に軽音ができる前からだった。高校でどうしてもバンドをしたかったFAVとイキがクラスで偶然意気投合してできたのがF・W・Aである。  ただその頃彼女達の学校はいわゆる受験高であったので、軽音楽部はなかったし、学園祭でのエレキ系のバンドも禁止だった。  仕方ないので学校で見つからないような所へバンド活動の足を伸ばしたものだった。  彼女達の住んでいる県の土地柄、ベースキャンプのクラブでやる場合もあった。そういう時には女だと危険だ、なめられる、という周囲の声もあり、イキやらその当時のメンバーの助言もあって、きついきつい、とんでもなく派手なメイクに走ってしまった。  まあはっきり言って、「変装」か「仮装」である。  ところがその「仮装」があまりにも面白かったので、今に至ってしまうのだ。  歴代メンバーはその数だけ色々なタイプがいたが、女の子の中には受験だのなんだので抜けていった子が多かった。自分で演るよりも誰かの追っかけをしていた方が楽しくて楽、と言って去っていった子もいた。  そしてそのたびにその時組んでいたイキ以外の男は言った。  だから女の子は駄目なんだよなー。  FAVはそのたび苦々しそうな顔をする。すると、あ、FAVは別だよ。そうつけ加えて。  実際、誰かを追いかけている方が、楽だろうとFAVでも思う。取り替えが効くし、少なくとも、追いかけている、「形にならない何か」がそいつに見つからなかったとしても、自分の責任にはしない。  おかしなもので、追いかける自分の眼に狂いがあったとは考えないらしい。  追いかけた相手が落ち目になれば、そいつの責任にしてさっさと次の奴に乗り換える。そしてやがて、その行動自体に飽きるのだ。いわゆる「足を洗う」。最後には、そうしていた事も、「昔の美しい思い出」ですませるべく。  だが、FAVはそれで満足できるような性格ではなかった。  もし満足できような性格だったら、自分で楽器持って、指の皮びりびりにして、肩のバランス崩してまで何かを作ろうなんて考えるわけはない。  その追っかける対象の誰かさんが、自分のどうしても欲しい音を、絶対にいつでも必ず作ってくれるという保証なんてないのだ。他人の作るものだから、絶対に自分の欲しいものと一致する訳がない。「近似値」に過ぎない。だったら自分で作った方が早い。  作れないんじゃなくて、方法を見つける努力をしてねーんだ。  少なくともFAVはそう思っている。誰かを待ってるなんてうざったい。  ところが現在のヴォーカルのヨースケはその点についてはことごとくFAVと意見が合わない奴だった。彼の口癖。  だけど女の子って根気がねーからさぁ。  そしてその後にフォローがない。  暗に、だからあんたもそんなことしてないで、楽器やってる誰かのものになっちまえば? と含んでいる。  バンドのメンバーというのは必ずしも「お友達」ではない。特に長期間やっていて、何度もメンバーチェンジしているような場合は、純粋にその腕だけ(声だけ)を求めていまう場合も多い。それが良いかどうかはFAVとて知らない。結局は結果オーライの世界なのだ。  ヨースケはたいてい普段から何人かの女の子を侍らせているような奴で、それこそ、「とっかえひっかえ」という奴である。  一方そのヨースケの昔からの友人であるというベースのハルシはそんな友人を心配しつつ引っついている、という調子で。見ているイキやFAVにとっては涙ものである。  ヨースケにとって、女の子はせいぜいがところクッションなんだろうと彼女は思う。柔らかくて、あったかくて、手を伸ばしたらいつも居る、程度の。
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