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猫は呆然とする私を見ながら、「早く早く」と尻尾を振った。
慌てて猫を追いかけた。
自然と、足は動いてた。
周りは嘘のように別世界になっていた。
私の知っている町並みは消えて、路地の横に立ち並ぶ家や建物は、まるで遠い昔の中にある世界のようだった。
…どこ、ここ
…昔の町?
いや、そもそも…
わからない
わからないけど、その「場所」が、ずっと過去にある場所に見えた。
どこかで見たことがあって、それでいて、ずっと遠い時間の先にある景色。
そんな感覚になって、不意に懐かしくなる自分がいる。
公園が見えた。
誰もいない道を歩いていくと、古びた家屋や商店が、所狭しと並んでいった。
シンプルなフォントで書かれた、「青果店」や「鮮魚店」。
さしかけの上や、壁に突き出すように設置された白いブリキ看板に、遠くからでもわかるほど大きく、レトロチックな文字が並んでいた。
焼き鳥店や焼肉店の下には、赤い提灯がところどころにぶら下がっている。
どの建物も古く、それでいて確かな骨格を持っていた。
間口いっぱいに店を開けて、目の通った檜材の格子を並べ、その上に背丈が一尺以上もある一本物の大きな桁を渡している。
軒の上を見ると銀色の日本瓦が敷かれていた。
その付け根からは二階が立ち上がり、細長い煙突のようなパイプが上に向かって伸びていた。
軒下には、ビール瓶の入っている木箱や、火のついていない石油ストーブが置かれていた。
「たばこ」と書かれた立て看板や、駄菓子屋の前に停められた、たくさんの自転車。
人はいなかった。
「どこ」にも。
整然と続いていく古びた木造建築の周りには、人の気配らしい気配がなかった。
だけど、駄菓子屋の外にはアイスクリーム用の冷凍ケースが出されてて、焦茶色の陳列棚にはたくさんのお菓子が並べられていた。
まるで、ついさっきまで、この場所に「誰か」がいたかのようだった。
通りの端に停められた移動式の屋台には、丸椅子が四つほど並べられていた。
剥き出しの豆電球からはコードが伸び、割り箸やレンゲが、「ラーメン」と書かれた暖簾の下に綺麗に立てかけれていた。
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